北アルプス 白馬乗鞍岳

2025年3月21日〜22日

3月21日金
東京駅0628発〈新幹線〉南小谷0956着/1007発〈コミュニバス〉栂池高原1035着/1100発〈ゴンドラ〉1140着/1200発〈ロープウェイ〉栂池自然園1215着−天狗原1403着(テント設営)

3月22日土
0400起床0610発−白馬乗鞍岳0753着−天狗原0855着(テント撤収)−栂池自然園11時着/1130発〈ロープウェイ〉〈ゴンドラ〉栂池高原1240着/1320発〈高速バス〉長野駅1450着/1503発〈新幹線〉東京駅1640着
はじめに:
厳冬期に人を寄せ付けない北アルプスに3月に入った事でチャレンジする事にした。白馬大池にベースキャンプを設営し白馬岳に登る予定だったが、眼前に立ちはだかる乗鞍岳の雪の城壁から、絶えず北西の風が雪を舞い上げて地吹雪となり斜面を登っていく入山者を麓へ押し戻している。それでも私の前進する意思は揺るがず、私なりの風雪のビバークが始まった…!

3月21日金 晴れ 強風
 栂池高原でロープウェイのチケットを購入する際には登山届が必要な為、事前にWEBで提出しておいた。往復チケットは三日間以内は有効だ。入山者の大半がスキー客で二日間で私が見かけた登山者は7名だった(5名パーティー、ソロ2名)。そのうち、5名パーティーは白馬乗鞍岳手前で撤退、1名は天狗原手前で撤退したとの事だった。私は行ける所まで歩みを進める決断をしたが、ロープウェイの待ち時間などで約1時間ロスしていた事、5名パーティーが越えられなかった白馬乗鞍岳を単独で超える事は難しいと考え、幕営地を白馬大池から天狗原に変更した。

前々日まで大雪だった為、ワカンを付けても雪に埋もれ、汗をかきながら高度を上げて行く。前方から強風と共に雪が舞い上がり、山体が確認しにくい為に、GPSで何度も方向を確認しながら進む。スキーヤーは天狗原まで行かず、2000m付近で左右の斜面から思い思いに滑走していく。見渡す限り私ともう一人の単独者だけになり、何も言わずともお互い協力しあい、先頭を交代して歩みを進めた。
13時55分必死の思いで天狗原に着くと、吹きすさぶ雪原に小さな祠があるだけのだだっ広い平地で、テント設営の為の僅かな窪地を探し求め歩くも見つからず、祠から東斜面の灌木の元にテントを設営する事にした。歩行運動を終えた体は爆風により一気に熱源を失う事から一刻も早くテントを設営する為に、もう一人の単独者と協力して雪をスコップで整地し、風に煽られるテントを抑え設営するも、通常30分の設営が1時間ほど要した。

 テントに収まると風がテントを叩きつける音で騒がしいが、本日の生存を維持する場所を確保した事に安堵する。爆風の向かい風を受け続けた体は疲弊し、今すぐ横になりたい気持ちを我慢し、ジェットボイルの小さい鍋で雪を溶かし水を1リッター分作る事にも骨が折れた。

夕方にテントの入口を少し開けて外を見てみると、殺伐とした暴風音とは対照的に、新潟から長野に連なってたたずむ真っ白な妙高戸隠連山が夕日を浴びて温かく色づいて見える。山は風雪で人の侵入を拒むのに、突然飛びっきりの美しさを見せてくれる。苦しさに葛藤しながら山に登る私の原動力の一つはこの以外なプレゼントを時折渡されるからなのだろうか。日も暮れてきた頃、爆風の中でも星は満点に輝き、地上の夜景の上には赤黄色い二十三夜がぽっかりと浮かんでいるのを見て、過酷でいて美しいこの夜が一生忘れられない事を確信した。

深夜に気が付くと雪がテントの高さの1/3くらいまで積もり、雪の重みでテントの内側がたわんでいる。テントがつぶれない様に、定期的に内側から雪を押し戻した。雪かきはトイレに1回出た時と、翌朝出発する時の2回だけで何とかしのげた。結果的にテントの周りに防風壁が構築されて、テントごと吹き飛ばされるのを防いでくれた。翌日も強風予報である事には変わりはないが、風が落ち着く時間帯もあるだろうと思っていたが、明け方まで引っ切り無しに爆風は続いた。

3月22日土 晴れ 強風
 予定では4時に起きて、5時半に出発し、ベースキャンプを白馬大池まで移して、白馬岳に登る修正プランを昨夜立てたが、相棒の単独者と朝に再度相談をして、今日も明日も風が弱まる気配がない為6時にテントを残して、白馬乗鞍岳を目指し、今日中に下山する事に決定した。

南北にすそ野を広げる白馬乗鞍岳の山体は雪の城壁となって眼前に立ちはだかる。左斜面には強風による風紋が形成されており、右斜面には上部から中部にかけて雪崩の滑走路とデブリが確認出来る。一昨日からの強風の為登山者のトレースはほぼ期待できない為、所々雪の締まり具合でルートを読みながら中央からやや左のラインをラッセルで高度を上げて行く。稜線に向かうごとに風は更に強くなり、耐風姿勢で一歩ずつ進んでいく。
7時53分に白馬乗鞍岳のケルンに到着し、風を遮るものもないまま休止を取った。山頂には小さいテントが一つあり、風により破れている様だった。この登山者の安否が気になる所だ。白馬乗鞍岳から更に南西を仰ぎ見ると船越ノ頭が聳えており、その先の小蓮華山、白馬岳を確認する事は出来なかった。下山時は風を背中に受ける為登りより比較的楽だが、白馬乗鞍岳の斜面を下る際は風で前に煽られて滑落しない様に気を付けた。相棒は余裕で雪上訓練がてら滑落停止訓練を何度も行い、あっという間に下部に着いていた。8時55分に天狗原に戻り、テントが飛ばされていない事に一安心し撤収作業を行い、ワカンに履き替えて11時に栂池自然園に帰還した。

最後に:
今回は、冬季八ヶ岳で冬山経験を積んだ私にとって、残雪期の北アルプスは一つの大きな挑戦だった。一昨日までの降雪により一気に厳冬期に逆戻りした白馬岳の様相を目の当たりにした。爆風下でのテント設営も、テントが雪に埋もれる経験も初めてで、この山行で対峙するあらゆる事象が私の想定を遥かに超えており、それらを一つ一つ冷静に対処する様努め、安全と挑戦を両立させていく事に奮闘した山行となった。


記録:AB



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