北アルプス・剣岳・立山三山

2004年8月7日(夜発)〜8月11日

8月8日(日) 晴れ
【コースと時間】
(7:00)室堂(8:10)→(9:00)雷鳥平(9:20)→(12:00)御前小屋(12:20)→(13:10)剱沢テン場

 今回は夜行バスさわやか信州号を利用して室堂へ入った。前夜21時、3人そろって横浜から出発。途中新宿でバスを乗り換え翌朝7時に室堂に到着した。
 夜行明けであるし、行動は少なめのため、室堂でゆっくり準備した。警備隊詰所に山行計画書を提出し、特に長次郎谷の様子を聞いた。積雪が少ないので八峰の1、2峰間ルンゼあたりは岩棚通しで行った方が良いとのことだった。
 8時10分に出発。雷鳥沢にはまったく雪がない。こんなに雪が少ないのは初めてだ。溝越さんは少し頭痛がするとのこと。高度障害かと心配するが、ほどなく回復。3人ともこの剱のあとそのまま各々の会山行に参加(溝越さんと私は真川・シンノ谷〜赤木沢、今井さんは涸沢岳西尾根)するので荷もそこそこ重い。雷鳥平ではまったりと20分休む。
 さあ、別山乗越への登りだ。いつも称名川のほとりには雪があった記憶があるが、今回はまったくない。本当に今年は雪が少ない。高山植物も盛りが短いのか、イワイチョウも花がチラホラしか咲いていない。夜行到着でのこの登りは、慣れないと疲れるものだが、二人とも多少しんどうそう。荷が重く疲れてくると特に体が前傾してくる。そうすると内蔵を圧迫するし、滑りやすくなるためバランスを取ろうとして余計な力を使うので、いよいよ疲れてくる。膝頭を上前方によく上げ腰を前足の上に押し出すようにして歩くと楽だ。私の好きなウサギギクをはじめ可憐な高山植物が疲れを癒してくれるが、心なしか幹がやせて見える。
 12時に剣御前小屋前に着いた。眼前にどっしりと剱岳がある。剱岳は今井さん、溝越さん二人とも登りたいと思い続けていた山らしい。ゆっくり眺めて過ごした。あとは剱沢へ下るだけだ。見ると、剱沢のテント場の近くにも、いつもある雪がまったくなかった。
 午後1時10分に剱沢に着き4天を設営する。利用料を払いに行くが、設営日数にかかわらず一人500円。これがなぜか嬉しい。なんとなく歓迎されている気になる。明日からの行動でここがベースとなる。予定では、剱御前の岩場に行く予定であったが、取付の雪渓はなくガラ場のトラバースになるしメンバーも疲れが見えるので明日の長次郎谷に備え取り止めとした。剱沢小屋へ行き、ビールなど飲んで一息入れた。夕食は石狩鍋。

2日目 8月9日(月) 曇
【コースと時間】
(4:00起床)剱沢テン場(5:35)→(6:50)長次郎谷出合(7:10)→(9:20)熊ノ岩(9:40)→(11:15)長次郎のコル(11:40)→(12:10)剱本峰頂上(12:30)→(14:20)前剱(14:25)→(15:30)剣山荘(15:35)→(16:00)剱沢テン場

 4時に起床して朝食を食べ5時35分出発。ガスが湧き、剱岳方面の展望なし。剱沢に下りていくとやはり雪がない。ゴーゴーという音しか聞こえないことが多い滝も全貌を見せている。右岸の斜面をしばらくたどる。武蔵谷が入ってくるあたりから雪渓が出てきた。雪渓に下り、アイゼンをつけてアイゼンの爪を引っかけない歩き方を練習をして下り始めた。雪渓と言っても中央部に土が露出して盛り上がり、所々横に亀裂が走っている。こんな光景は初めて見た。剱沢小屋の友邦さんによると、これは主に大雨のせいで何十年ぶりのことだという。長次郎谷の手前で、中央の泥の山を乗り越えて左岸よりに渡る。さすがに長次郎谷出合までには泥山の露出もなくなった。長次郎谷出合に6時50分に着き休憩。
 長次郎谷出合を7時10分前に出発。八ツ峰の1、2峰間ルンゼ出合付近は右岸側に岩が露出し、雪渓が狭まっているが、今回はその岩の露出がすごく広い。そして左岸寄り、八ツ峰寄りの雪渓の下を流れる水の音がゴーゴー聞こえる。少し前までは通ったような踏み跡のある雪渓部分も崩落している。八ツ峰側にある岩屋も通常より5〜6mは上方にあろうかと思われた。岩棚歩きが長そうなのでアイゼンをはずして歩いた。雪渓から岩へ移るところ、岩から雪渓に下りる所ではアイゼンをつけているので二人とも緊張気味だった。アイゼンでの岩場歩きの練習も企画しようかと思った。そのうちだんだんガスも晴れて上部が見えてきた。八峰の岩峰群、突き上げる長次郎谷。アルペンムードいっぱいだ。
 熊ノ岩の手前、傾斜が緩くなってから私が先行して左俣のクレバスを見に行く。通過できるという話も聞いたが、クレバス部分の手前も亀裂ができパックリと崩落しており、それもそんなに古くなさそうなので危険を感じる。右俣をしばらく登り、熊ノ岩のビバーク適地の上を横切って左俣に下りることにした。
 熊ノ岩の下でしばらく休憩。八峰6峰のA、Cフェースにクライマーが4−5パーティ位ずつ取り付いている。しばらく眺めて過ごす。熊ノ岩は主にガラ場を歩いて横断し、左俣に取り付いた。左俣に入るとこれまでより少し傾斜が増す。たしか最大35度くらいとかガイドブックにあったような気がする。足首の屈伸が有効に使えるように外股内エッジ立ち歩行で歩く。かかとを後に上げ、雪面に内エッジを強く蹴り込む。蹴り込むときに親指の付け根辺りから切り込むように入っていくが、腰で打ち付けるようにして、かかとまでしっかり打ち込むようにすると軸足の上に腰が来て体軸ができて身体が安定する。上部では、雪渓に亀裂が走るが最初の方に出会う亀裂は底が地面で浅くもあり、休むのにちょうど良い。以前来たときにも多分同じ所で休んだ記憶がある。地熱か何かの影響だろうか。詰めは少しのガレで長次郎のコルに出た。今年5月通ったときは雪に覆われ広々としていたのに、雪がないと狭い。ガスが湧き出て十分な展望とはいかないが、切れたときに登ってきた長次郎谷、八ツ峰が一瞬見えた。やはり八ツ峰はかっこいい。写真を撮って頂上へ向かう。
 雪が少ないので剱の帽子はないかも、と思ったが、ちゃんとあった。源次郎尾根U峰から懸垂しているのが見える。12時10分に頂上に立った。平日のためか登山者は少ない。ガスであまり展望が利かない。記念写真を撮ってもらい出発。あとは一般道だ。二人はこの一般道の方が怖い、という。人も少ないので、鎖場でデイジーチェーンによる自己の安全確保、鎖の中間の支点の所でのカラビナのかけ変えの練習をした。前剱あたりからポツリポツリ来たが、たいした雨ではなかった。この雨はテントに着いた後剱沢小屋でカップラーメンを食べたりしているときに、大雨となった。

3日目 8月10日(火) 曇
【コースと時間】
(6:30起床)剱沢テン場(9:10)→別山岩場(15:30)→(16:05)剱沢テン場

 今日は別山の岩場でボルト、ハーケン打ちの体験。現場はすぐ近くなので、ゆっくり寝ることにし、6時30分起床とする。夜半から雨、朝も雨で、様子を見ることにする。この間ボルト打ち、ハーケン打ちの座学。9時すぎると雨が上がりそうな雲行きとなったので、準備して9時30分出発。
 別山の岩場へは急なザレ場を登る。ここで足元の不安定なザレ場の登下降の練習をした。軸足に最大加圧がかかるように軸足の上に腰をもっていくのだが、傾斜が急なことと足元が崩れやすいので下半身のバネと腰、上半身の運動をダイナミックに使って安定するところまで登り、そこでレストし、場合によっては次に向けて体勢を整える。決してアクロバットな運動ではないが、慣れないので二人とも上半身、下半身がバラバラに動いてしまう。動きがぎこちないが、最初は形から入るしかない。脇について腰の動きに合わせてもらうとうまく身体が動く。繰り返して自分の身体が覚えるようになると、あのときはなんでできなかったんだろう思うだろう。下りは、小刻み歩行を練習した。意識としては下りようと思わないで、その場で足踏みするくらいの気持ちでよい。足踏みといっても足を上げるというよりは爪先は地面につけたままかかとを上げるくらいでちょうど良い。その場で足踏みしようと意識しても、身体は重力の作用で勝手に下りる。その身体の動きに逆らって本当に足踏みする訳ではない。足を前(下になる9に出さず、積極的には重力に逆らわずというところか。その程度は登山道の状況に応じて自分で適宜決めることになる。場合によってはザレと一緒に滑って下りる。小刻み歩行だと重心の移動が少ないので滑ることはあってもスッテンコロリといく可能性は極めて少なくなる。スキーのストックを持つときのように(?)両肩を軽く前に持ってくるようにすると体が開くのを防ぐ効果がある。そのザレ場で何往復か練習した。その後少し上がった所に大きめの石が積み重なったガレ場があるのでそこでガレ場の登下降の練習をした。ここも登りはダイナミックに腰を上足の上に持っていき、石を力強く踏みつける。腕や上半身も動員してガレが崩れるのに負けないスピードで登ってしまう。
 下りは小刻み歩行で、なおかつ全身で飛び跳ねるというか暴れるようにダイナミックに身体を動かしてガレを踏みつけながら下りてしまう。鉛直線上から力強く踏みつけられたガレは、多少ズルッといくことはあっても、体重による衝撃はすぐ抜けるので転げることはまずない。但し大股になれば斜面に沿って滑るように働く力も大きくなってしまうので石車に乗る状態になってよくない。
 その後上部の岩場へ行き、練習に適した岩でボルト打ち、ハーケン打ち、抜きを行った。会のメンバーの多くにとっては、実際の山行でハーケンはともかくボルトを打つことはあまりないかもしれないが、残置のそれらを利用することは大いにあることだろうから、自分で打つことによってその利用に際しての注意の仕方も変わるのではなかろうか。自分の打ったボルトをアンカーにして確保をしてもらい、しごくやさしい安全なところで私がリードして二人にも登ってもらい終了した。

4日目 8月11日(水)快晴
【コースと時間】
剱沢テン場(5:40)→(7:30)別山(7:50)→(9:20)真砂岳(9:20)→(10:25)大汝峰(10:55)→(12:00)一ノ越(12:10)→(12:50)室堂

 今日は剱岳もハガネのようなどっしりした全容を見せてくれる。剱沢のテン場を撤収して別山乗越から別山〜雄山の3000m漫歩だ。別山までの斜面の登りで歩行のコツの一つを紹介した。歩行は、関節(特にこの場合は膝と足首)の曲げと伸ばしの運動とも言える。その曲げ伸ばしの運動を意識して身体全体でリズムを取って連続して行うとよい。いつも動かしていると疲れると思われるかもしてないが、実際は逆に疲れない。身体全体を運動に動員するため一部の筋肉に負担がかからず、反動も利用でき、滑らかな動きだからムリな力を使わず、安定性にも優れる。一歩一歩止まりながら歩くと、いつも停止状態(運動ゼロ)から運動が始まるため大きなエネルギーが必要とされ、またバランスを崩しやすい(特に膝が立ったとき)。---と、まあ言うは易く行うは難しで二人ともぎこちない動きとなっていた。これも形より入って体が慣れれば、身体自身が楽だからその方法を自ら選ぶようになる。
 別山からの剱の眺めは最高だった。自分たちが登った長次郎谷左俣はほとんど隠れて見えないが、長次郎の頭が見えるので、わずかに見える白塊が左俣と分かる。溝越さんが「あんなとこを登ったんだ。結構長くて急ですね。剱はずっと気になっていた山で、山に登ると剱を捜していた。まず大日岳あたりに登ってその後剱かなと思っていたけど、いきなり剱に登ったんだ」と感激していた。
 真砂岳では、雷鳥平へのエスケープルートともなる大走りルートとの分岐で、1980年10月8日、8人パーティが雪に見舞われ、パーティがバラバラになりザックにあった服を着ることもなく稜線上で凍死した事故が話題になった。富士の折立への登りは段差登りとなる。岩登りと同じで下半身のバネを使って歩くと楽だ。富士の折立を過ぎるとなだらかな道。グリーンペンキでも塗ったかのような黒部湖が眼下にある。しばらく行くと大汝峰。てっぺんに上って記念写真を撮ってもらった。ここでゆっくり休んで出発。1時に雄山着。雄山は観光客でごった返し、二人は居心地悪そう。早々に出発。
 雄山からの下りは、団体客がたくさん。ガラ場で落石が起こりやすい。今日の核心部だろう。危険な所は早く通過するに限る。さっさと下りて12時50分に室堂着。空身でみくりが池温泉へ。私と溝越さんは今日中に折立に入って12日から真川シンノ谷-太郎沢-赤木沢遡行に参加する。今井さんは、今日中に松本に出て12日早朝涸沢岳西尾根隊に合流する。そこでここで汗を流して周囲への迷惑とひんしゅくの元を流しておこうというわけだ。平日だったためか、温泉は空いておりゆったりと汗を流し、温泉のレストランで食事をしてそろぞれの山行へと向かった。

 会の長老大塚さんが剱は見ても登ってもいい山だとおっしゃっていたが、本当にそのとおりだと思う。山行経験がそんなに多くない私が言うのはおこがましいが、どの山が一番いいかと聞かれたら、やっぱり剱かなと思う。この春にも来たが、夏の剱沢は2年ぶりで、来れて良かった。
 (注)ここに書いた歩行技術は、私が登山研究家の福島正明さんから学んだものです。ただし、文責は私にあります。また、ここではそれぞれの歩行技術のすべてのポイントを述べたものではありません。参考にする方は、ご自分の判断と責任において実践してください。

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