剱岳源治郎尾根岩稜縦走・剱岳往復・立山3山縦走
日程 2005年8月5日(夜)〜9日


8月6日(土)記録 渡辺
【 天 候 】曇り時々晴れのち雨
【コースタイム】(5日22:30新宿発高速バス)7:00室堂バスターミナル8:13―8:58雷鳥平9:15−10:20休憩10:30−11:00剣御前小屋11:15−11:50剣沢テント場着 15:00〜15:30剱沢下見

 朝7時室堂ターミナル着。ぞくぞくと増えてくる人の数に驚きながら荷物を整え、山岳警備隊派出所へ登山届けを提出しにでかけた。何かあった時に対応するのは剣沢キャンプ場の隊だから、届けはそちらへ出すように。と指示を受けた。西さんは今年の雪渓の様子などを尋ねていたが、あまり詳しい答えは返ってこなかったようだ。引き返す途中、二人が言うには、今の青年は、去年だったかに、山岳警備隊の新人訓練の様子がテレビで紹介された時の、主人公その人だったそうだ。
 花の名前など聞きながら、ミクリガ池、雷鳥荘を経由し、雷鳥平に到着。ほんとうに平らな、広々とした所で、日の光がまぶしかった。こんなところで、のんびりキャンプも悪くないな。と思った。まわりの山々は、雪渓の白と山の緑のコントラストが美しい。雷鳥坂手前のすこし残っている雪の上で、しばし雪渓歩きの練習をしてから、いざ、登りはじめる。この登りが、本日の核心?部である。我々は西さんのスピードに着いていけず、終止遅れ気味。なるべくついてくるように。と声がかかるが、私はもともとスピード不足。溝越さんは自分史上最高という重荷に、慎重になっていたようだ。
 剣御前小屋に着くと、小屋前で焼きそばを作っていて、西さんが偵察に行くも、出来上がり時間と値段に難あり。と断念して戻ってきた。風が吹いて寒くなってきたので出発。ここまで来てしまえば、あとは下る一方でテン場に着けると思うと気が楽だ。テントが見えてくると、いつも遠くで眺めていた剣に、とうとう登りに来たんだなぁ。と実感が沸いてきて足取りも軽い。剱沢のテン場は、すっきりと開放的で、明るい印象を受けた。水場も近いし、暮らしよさそうな所だな。と思った。何より剣が真正面だ。幕営好適地も割りとすぐにみつかり、さっそくテント張りにとりかかる。今回は溝越さんが先に下山するので、三人パーティながらテントは二張りという変則パターンだ。この頃には風がかなり強く、組み立て終わったテントが一瞬のうちに風にさらわれて、まるでビーチボールか何かのように、コロコロ転がって飛んでいってしまったのにはあっけにとられてしまった。すぐにつかまえられる場所でよかった。そんなこともあり、西さん、渡辺のテント前には、豊富な石を利用して積み上げた防風壁が築かれたのだった。
 時間はたっぷりあったので、剣沢小屋へ遊びにでかけた。小屋前のテラスに陣取り、ラーメンやビールやお茶を手に剣を眺めてボンヤリしている、ぜいたくな時間を過ごした。小屋をひきあげる時にフト見ると、テラスの一番剣岳に近い側に立っている看板の剣の標高表示が、さっきまでの二九九八から二九九九に書き換えられていた。最後の九の字だけ、色が違うのが初々しかった。

8/7(日)記録 溝越
【 天 候 】 曇り時々晴れ
【 ルート 】 剣沢テント場350→430雪渓取り付き(2260m)443→515源次郎取り付き525→535スリング手前600→ルンゼ取り付き(2290m)640→705休憩(2325m)720→733ザレ場(2360m)757→尾根道出合い(2400m)809→主稜線(2540m)845→920一峰(2709m)940→1030二峰懸垂(2730m)1108→1200剣岳山頂(2999m)1225→1335前剣1345→1425武蔵のコル1435→剣山荘1500→1530剣沢テント場(幕営)

 前日の予報もあり早立ちを決意、3:00に起床する。出発してすぐに溝越がGPSの電源を入れるために立ち止まったため、単独男性が我々パーティーの間に入ってしまった。懐中電灯を頼りにガラガラの道を下っていく。剣岳への一般登山道との分岐で、西さんがわざわざ「剣沢はこっちだな」と声を出して我々が一般ルートに向かわないことを示したのだが、この単独男性はそのまま我々に付き従って歩いてくる。軽装なので心配だったが、かなり下ってから、いつまでも登りに転じない道にようやく間違いを悟ったようで、戻っていった。
 武蔵谷の手前で雪渓に取り付く。西さんに言わせると例年より雪渓は短いとのことだが、昨年よりはマシだ。西さんはアイゼンを付けなくても下れると言うが、我々のぎこちない動きを見て、アイゼンを付けることになった。しかし、溝越は部品の紛失で左足のアイゼンを装着できないトラブルに見舞われる。傾斜は強くないのでそのまま難なく下る。
 源次郎は尾根ルートとルンゼルートがあるが、今回は尾根ルートで取り付き、暫くしてルンゼルートに入り、また尾根ルートに戻るというヤマケイのガイドでも紹介されているコースであった。が、あとで分かったことだが、ルンゼルートは落石が多いため現在はほとんど登られていないとのことで、ルンゼから尾根に戻るところで苦労することになった。源次郎の取り付きには、それらしい良く踏まれた踏み跡があり分かりやすい。一応、西さんが周りを偵察するが、ここだろうとのことで、西さん、溝越、渡辺さんの順序で登りだす。すぐに残置スリングがかかる岩に出る。西さんがこのスリングを見て「ここは昔ひどい藪漕ぎで苦労したことがあるルートだ。別のルートがあるはず。」と言って、取り付きまで偵察に戻る。後続のパーティーに尋ねたりしたが、結局現在はここを登るのが一般的とのことで、このまま進むことにする。
 残置スリングに頼って、岩を乗り越すいきなりの難関だ。ここからは、木の根をつかんで登るような急登が続く。ザックに差したピッケルが木の枝に引っかかり非常に煩わしい登りだ。途中で後ろからすごい勢いで登山者が登って来た。見ると、軽装で単独。本人曰く「ロープは無い。小屋の主人からは、止めろと言われたが、様子を見に来た。」と言う。「危ないなぁ」という感じだったが、自分も初心者の分際なので「帰ったほうが良い」とも言えなかった。一息つけそうな小平地からルンゼにトラバースするルートに入る。難しいトラバースではないが、落ちれば大怪我をする場所でもあるので、ここで西さんが単独者に「ロープが無いと無理だ」と帰るように促したので、渋々戻っていった。我々がルンゼに取り付くところで振り返ると、件の単独者は他の登山者が尾根ルートをつめるのを見て、さらに尾根ルートを登ろうとしていた。これも他の登山者に注意されたので、おそらくおとなしく帰っただろう。
 ルンゼルートは、陰険なイメージを想像していたが、明るい乾いたスラブ状で、フリクションが良く利く楽しいルートだった。バランスクライミングが要求されるところが2〜3箇所あったので、溝越が立ち往生したが、お助け無しでなんとか登ることができた。途中で朝食休憩をとる。
 快適な岩歩きを楽しんで登っていくと、大岩とザレ場にぶつかる。左に尾根ルートへと続く踏み跡らしいものがあるが、とりあえずこのザレ場を登る。しかし、誰も登った形跡が無く、ザレザレの急斜面で厳しい。ようやくこのザレ場を登りきるが、この先にも踏み跡が無いため、西さんの判断で、ザレ場を再度戻り、結局、先ほどの左の踏み跡を行くことになった。苦労して登ったザレ場を今度は下降する。精神的に疲れたところで、左の踏み跡に入るがすぐに踏み跡は無くなり、あとは草つきの斜面を滑落に気をつけながら適当に登っていく。
 ようやく尾根ルートにたどり着いた時には、溝越はバテバテ。しかし西さんは休憩も取らずスタスタと登っていく。こんな会話が繰り返される。溝越「西さ〜ん。バテました!」西さん「雨が降りそうな天気だな。雷に遭遇する可能性がある。急ごう」溝越「え〜!?」溝越「西さ〜ん。疲れました!」西さん「もうすぐ一峰だ。がんばれ」溝越「え〜!?」
 ようやく登るべき斜面が無くなって、一峰の一角にたどり着く。ここで休憩。西さんから「アミノバイタル」をもらう。これが効いたのか、その後は少しはマシに歩けるようになった。左に平蔵谷、右に長次郎谷と八ツ峰を見ながら、狭いコルに到着。これから登る二峰は一峰よりもなおも高くそびえる。しかし難しいところも無く、急登を登りきって二峰の山頂に到着する。
 大岩が折り重なるような山頂部は飛び石伝いのように進むが、左右は切れ落ちていて少し怖い。山頂の先、少し下ったところに懸垂支点がある。西さんがロープをセットする。我々のパーティーはいつの間にか最後尾になってしまったようで、後続も無いので、落ち着いて準備することができた。西さん、溝越、渡辺さんの順番で下降する。下降したコルは思ったよりも広く、少し寛ぐことができた。ロープを回収して出発する。ここからは、特に難しいところも無く、登っていく。西さんのペースについていけないので、西さんが常にずっと前を先行していたが、山頂手前で西さんが「もうすぐ山頂だから、一緒に行こう。」と待っている。最後のピッチだけでも西さんに食らい付いて登るつもりだったが、結局西さんにやや離されて山頂に立つ。
 山頂は昨年同様霧の中で景色はほとんど見えない。登ってきた源次郎尾根が、霧の間から少し見えたが、それもじきに見えなくなった。とはいえ、天気予報があまり良くなかったので、ここまで雨に降られなかったのは幸いだ。下りは一般ルートを下る。振り返ると源次郎尾根が再び霧の中から顔を出してくれた。前剣の手前で雨が降り始めるが、すぐに止む。剣沢のテント場には15時半に到着。早速、西さんの誘いで小屋へ行ってビールで乾杯する。行動時間11時間半以上の長い一日だったが、充実した日だった。

8月8日(月)記録 渡辺
【 天 候 】晴れ、曇り、雨と天気刻々と変わる
【コースタイム】4:30起床−6:07出発−6:35剣山荘−6:59一服剣7:05−6:44前剣6:47
−8:33カニのタテバイ着−9:07山頂9:40−10:30前剣10:40−11:52剣山荘−12:27テン場
 本日下山の溝越さんに見送られ、6時すぎに天場を出発。剣山荘近くには、こばいけい草の群落が咲いていた。この花は一本だと地味な印象なのに、たくさん集まっていっせいに風に揺れてたりすると、みとれてしまうきれいさだ。ここに来る前は、剣といえば岩だらけの山。と想像していたが、意外にもいろいろな花が咲いていて、目を楽しませてくれる。
今日は荷物が軽いわりには、昨日の疲れが体にへばりついている感じで体の動きに軽快さがない。前剣で休憩中、八つ峰の六峰や昨日登った源次郎尾根第二峰の懸垂地点がよく見えた。こうして遠くから見ると、ほとんど垂直にストンと落ちて見える。黒々と大きく横たわる一峰二峰を見ると、よく登ったなぁ。と、しばし達成感にひたる。
 この後何回か鎖がでてきた。おかしなもので、鎖があるとそれを使わないといけない気がしてしまい、岩そのものを見ることを忘れ、かえって難しいことになってしまったりする。鷹取山で鎖場を想定した練習をする機会があってよかった。にぎやかな団体さんと前後しながら進み、前剣の門付近で金属性の橋を渡っている時、東大谷側にブロッケンが見えた。今まで数回しか見たことがないので、丸く輝く輪の中に自分の影が映るのが楽しく、何度かポーズを変えてみたりする。
 ほどなくカニのタテバイ着。普段岩の練習をしてない人がいきなり来たらかなり手ごわいだろうな。と思わせるところだ。案の定、青少年のグループが手こずり中で、遅々として進まない。どのくらい待ったろうか。ずっとその様子を見ていたら、岩登りのビレイをしている時のように首が痛くなってしまった。さてようやく自分達の番だ。登ってみると、要所には長いクギのような足場がつくってあり、ササッとぬけることができた。そのあともゆっくりの青少年グループに先を譲ってもらい、早月尾根との分岐という道標を横目に山頂へ。
 残念ながら今日も視界は不良だ。しばしなごんだ後、北方稜線の端っこでも見に行ってみようかと長次郎谷側へしばらく下ってみた。空身だが、足場が悪く、緊張した。風に流されて次々とガスがかかり、何か見えそうで見えない。長次郎の頭がチラリと姿を現すも、すぐに隠れてしまった。いつか、あちら側にも行ってみたいものだ。
 さて、下りは昨日の復習だ。カニの横バイ前は渋滞で、往きのタテバイと合わせたら待ち時間だけでも相当の時間ロス。もっと混んでる日などは、コースタイムの予想もつかないことだろう。前剣手前の鎖場で、ピッケルをカランカランさせながら鎖を登る二人組がいて、ピッケルを落とされると恐いから。と西さんは少し間隔をあけて登っていく。随分のんびり登っていると思ってよく見ると、鎖をロープに見立てて、フィックスロープの通過の練習をしながら登っているのだった。
 前剣を過ぎた頃、雨が降り出し、雨具をつけた。午後になると雨になるのが常なのかというと、そんなことはないそうで、これはやはり天気が悪いせいらしい。剣山荘に着くと、気持ち的にはもう少しだ。と思うのだがここからが長い。ちいさな雪渓を三箇所横切った。昨日のフラフラ状態よりは元気が残っているものの、よくつまずくようになってきて、疲れているのを実感する。さらに剣沢小屋が見えると、もう着いたような気になってしまうが、まだまだだ。ガスったり、照ったり、降ったりと、天気の変化が激しい中今日の行程を終え、テントに帰りついたときはもうお昼をまわっていた。

8月9日(火)記録 渡辺
【 天 候 】晴れ
【コースタイム】3:00起床−4:55発−5:39御前小屋5:50−6:35別山山頂7:23−8:05真砂の先で休憩8:14−8:47富士ノ折立−9:02大汝山9:14−9:29雄山9:40−10:08一ノ越山荘10:18−10:50室堂山荘−11:00室堂ターミナル
 今日で剱沢ともお別れだ。頂付近に雲がかかっているものの、剱の眺めは良好で、今日の天気には期待がもてそうである。剱御前小屋に着いた頃にはまたガスがでて、小屋前でカメラをかまえていた人たちは、あきらめて小屋にもどっていく。別山に向かう砂地のような斜面には、朝露にぬれた草がキラキラと銀白色に輝いている。
しばらくするとガスが切れ、立山側の雲海の中に、今回の山行二度目のブロッケンがみえた。そこにいあわせたおじさん二人組が、子供のように歓声をあげてはしゃいでいる。剱岳側には朝の日がさしていて、剱岳、剣山荘、テント場、剱沢小屋すべてが一望でき、なんともいい眺めである。西さんも思わずシャッターを切っていた。
やがて別山に到着。ザックを置き、広場のような山頂の、さらに先へと進む。剱沢側の一番奥、そこが西さん推薦のビューポイントらしい。ひとり、三脚をたてて写真を撮っている人がいる。晴れあがった青い空をバックに、剱岳がすっくと、かつどっしりとその雄姿をみせている。いままでになく大きく、こちらに迫ってくるような力強さがあり、なぜか手を触れられるくらい近くにあるような錯覚すら覚える。日差しが強くて、日の当たる部分と影の部分のコントラストがくっきりとしているせいなのか、山肌が不思議なほど鮮明に見える。昨日登った時の、ごつごつとした岩肌の感触が、記憶のように手の中によみがえってきて、思わずじわっと手をにぎりしめてしまった。今日がこんなにいい天気でよかった。
さぁ、記念撮影だ。西さんがカメラをかまえ、いざ!「やっぱりさっきの一枚、とるんじゃなかったー」「えぇ〜?!」温存していた電池が、あと一歩のところで切れてしまったのだ。その時、横にいたカメラの人が、よかったらとりましょうか?写真ができたら送りますよ。と声をかけてくださった。願ってもないです!(後日、きれいな写真が送られてきた。感謝)
剱だけではない。白馬から後立山、針ノ木、蓮華、笠ヶ岳・・地図を広げ、山座同定をしながら大展望を満喫した。気づいたら、一時間弱も時間がたっていた。真砂へのダラダラ登りは思ったより苦しく、富士の折立への急登はゆっくりペースながら思ったより楽で、続く大汝山では一番眺めのよい岩によじ登って、またも展望を楽しんだ。槍、穂高、真近に針ノ木、眼下には黒部湖。別山とあわせて、お腹が一杯なくらい、山・山・山の展望を味わえた。
いよいよ日差しが強くなってきて、下山日にしてやっと夏山らしい天気になった感じ。上空の寒気の影響か、吹く風の涼しいのが救いだった。雄山に着いた時は暑くてたまらず、涼しい売店に逃げ込んだ。山頂に神社の建つ、神聖なはずのこの山に着くと、逆にいきなり俗世間が近くなった印象だ。西さん曰く、「さぁ、ここからが今日の核心だ。」え?あとは下るだけですよね?下り始めて、その理由はすぐにわかった。山頂目指して、広い斜面をわらわらとはいあがってくる(ように見える)無秩序な人の流れ。その間隙を縫いながら、一ノ越山荘へと岩のごろごろした道を下る。今度の山行もいよいよ終盤だ。憧れの剱はやっぱりかっこよかった。“惚れてしまう”山だった。バリエーションルートの源次郎尾根に挑戦することができた。好天に恵まれ、すばらしい展望をたっぷり楽しみながらの縦走もできた。又ひとつ、忘れられない夏の記憶がふえた。


【感想】西
 剱岳はいい。どっしりした山容とうさぎぎく、ちんぐるま、はくさんいちげ、つがざくらなどなど可憐な花々が迎えてくれる。できれば毎年登りたい。昨夏は長次郎谷雪渓を登った。少しステップアップして今年は源治郎尾根を登った。
 以前登ったのは、連れて行ってもらったので今回は自分で登りたいと思った。また、前回のときは、ほとんど木登りの印象が残っていたので、ガイドブックにあるルンゼの取付→左の支尾根→ルンゼに戻る→草付から支尾根→主稜線を登ってみようと思った。
 インターネットの記録で見た「ルンゼ取付への明瞭な踏跡」を辿ると、しかしそれは前回取り付いた小さな滝だった。そこを右の木の根を手掛かりに右壁の小さなフットホールドを使って乗っ越したのを憶えていた。ここを登ればまた木登りかと思い、周囲の様子を窺う。滝の手前右手にかすかな踏跡、そちらへ上ると剱沢を少し下った位置に浅いルンゼが見える。ここからルンゼへ入ろうと思えば行けそうだ。しかし踏み均されている感じがない。やはりルンゼ取付への踏跡はもう少し剱沢を下ったところのようだ。そこで剱沢まで下りてもう一度見に行くことにした。しかし後続のパーティが上がってくる。もう一つのパーティもこちらへ上がってくる。誰も下へ行く様子がない。上がってくるパーティに声をかけると、ガイドの人から「ルンゼは落石が多いのでこちらの尾根どおしがいい、山渓のガイドにあるのは古くて今は尾根どおしが通常のルート」と聞いた、とのことだった。ルンゼから取り付いてもガイドブックにあるようにどうせすぐ草付を登って支尾根に上がるつもりだったので、このままこの支尾根を行くことにした。
 登り始めてみると、前の印象と違い、木登りは木登りでも立派な登山道に近い状態だった。以前ほど苦労することもなく支尾根を行くと、じきに開けた場所に出た。草付をはさんで右手にルンゼが見える。ここが草付バンドをトラバースする箇所とはっきりと分かる。ルンゼに入るとスラブの涸れ滝が続き、しばらく行くとザレ場となった。一旦そのザレ場を登ったが、踏み跡もなく落石を誘引し後続するパーティがあった場合危険に陥れる可能性があるので早々にスラブまで下りて左の草付を登ることにした。それほど急でもなく、数メートルが草壁であとは浅い溝状の砂地の場所なので苦労することなく肩のような支尾根に上がった。後は見晴らしの利く支尾根上を行き主稜線に合流してからはルンゼ状の岸壁や草付などを辿ってT峰へ、そしてU峰、本峰へと至った。
 我々以外に他に3パーティほどが源治郎尾根を行ったが、みなルンゼには入らずずっと支尾根どおしで登ったようだった。剱沢に戻ってから剱沢小屋の友邦さんに聞いてみたところ、ずっと以前はルンゼどおし、その後はルンゼ→支尾根→ルンゼ→支尾根のルートだったが、今はほとんどのパーティが支尾根どおしで登っているとのことだった。登る前に机上登山をして自分なりの想定をし、それが実際はどうだったか比べてみる、というのもまたおもしろい。
 最終日別山頂上に着いたころ晴れて視界が広がり、源治郎尾根、そして件のルンゼがはっきりと見えた。剱初めての渡辺さんに最後には剱がほほえんでくれた。良かった。

 ※「源次郎」と「源治郎」 山渓のガイドブックには「源次郎尾根が正しいという説が近年有力」と書かれているが、従来より「源治郎尾根」が定着していると書かれている。国土地理院の地形図には「源次郎尾根」とある。だんだん「源次郎尾根」が使用されるようになっているのかも知れない。ここでは、各筆者に任せてあるので表記が統一されていない。


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