剣岳・チンネ左稜線

2002年8月20日


 前日の天気予報では翌日は台風の影響もなくなり徐々に天気は回復してくるとの予報。晴天のなか快適なリッジクライミングをできると期待したが、その期待をみごとに裏切り、予定の2時30分に起床したときは霧雨状態であった。食事をとり、出発の準備をしたまま晴れるのを待つ。しかし、4時が過ぎ、5時が過ぎても雨はやまず、ときおり強くテントをたたきつけるほどの強さになる。当初6時までは待とうと決めたが、残念ながら6時になっても雨は止まなかった。
 その時点で今日は八つ峰6峰Cフェースになるはずであったが、倉林がふと外へ出ると、長次郎雪渓を池ノ谷乗越へ向かう二人組みを見つける。下からあがってくる5〜6人のパーティもいた。
 すでに時刻は7時になっていたが、やはりチンネ左稜線に挑戦することした。気持ちが傾いたのは、前日が移動だけで終わってしまったことと、今日が最後のチャンスであったこともあるだろう。
 長次郎雪渓は上部で所々雪渓が切れ、ガレ場となっていたが、右側をつめることにより雪渓を踏まずにあがることができた。前日、源次郎尾根から見たときはこんなところ行けるのか思うほどガレだらけで、倉林は心配したものだった。乗越から池ノ谷ガリーを下り、三の窓へでた。踏み跡はあるので全く迷う心配はない。出発から1時間20分くらいである。池ノ谷ガリー側は霧雨というより小雨といった感じだったが、比べて東面は雨は落ち着いていた。三の窓に朝見た2人パーティがいた。我々は休まず左稜線の取付きを探す。しかし、ここまでは順調だったが、取付きを探すのに時間を食ってしまう。チンネ基部を八つ峰方面へ続く踏み跡にだまされてしまったようだ。先行パーティも取付きを探しており、9時ごろ取付きにつくことができた。先行パーティは今日は下見、明日登るとのことで戻っていった。
 さすがのチンネ左稜線も、盆過ぎの平日だからか、それともこんな天気だからか、我々以外には誰もいなかった。
 いよいよ14ピッチのロングルートの開始である。
 すでに時刻は9時20分。予定では午後3時にはテン場(熊の岩)へ戻り、今日はそこから真砂沢まで下らなければならない。1ピッチ15分なら4時間で終わるなどと倉林は心の中で計算してみた。
 源水リードでスタート。最初の4ピッチまでは1ピッチ15分のペースであった。しかし、その後は1ピッチの距離も長くなり、難易度は変わらないが時間は相当かかるようになってきた。
 天気は雨が降ったり止んだりを繰り返し、稜線では風も強くまるで冬のように感じた。また、ガスっているため景色は何にも見えず残念だった。
 しかし、そんな余裕もなく我々はひたすら登り続けた。6ピッチ目の草付を詰めると、遠く霧の中に核心のT5が姿を現した。壁全体が垂壁のようでちょっと身震いした。
 その後、核心までは小ピナクルが続いたが、完全にナイフエッジとなっているので、晴れていれば高度感あり最高の快楽(恐怖?)を経験できたであろう。相変わらず霧雨状態。やんでも風で体が冷えた。
 いよいよ核心。小ハングの乗っ越しがポイントであるが、すでにA0用にスリングがかけられている。よっぽど難しいのか・・。しかし、その下のフェースのほうが緊張した。ここが核心かと思ったほどである。肝心の小ハングについては、右手にホールドを見つけたため、意外にもあっさりクリアすることができた。
 その後もナイフエッジが2〜3ピッチ続いた後、チンネの頭についた。時刻は14時20分、5時間かかったことになる。ここで初めて休憩をとり、行動食を口にした。
 そして、急いで下山する。ここから八つ峰への踏み後もあるはずだが、霧がひどかったので来たルートを戻ることとした。といっても、チンネの頭から熊の岩までは45分で戻ることができた。
 急いでテントを片付け、蜷川さん、小倉さんが待つ真砂沢へ出発した。 真砂沢には17時過ぎに到着。 長い一日が終わった。

【時間】7:00熊の岩 − 8:30三の窓 − 9:20登攀開始 − 14:00T5 − 14:20チンネの頭 − 16:15熊の岩 − 17:30真砂沢


 なかなか来れない剣岳。これを逃したらチンネ左稜線は何年後になるだろう・・・。そんなわけで、悪天気の中登ることとなったが、14ピッチの登攀はこれ以上ない達成感で満たしてくれた。といっても雨も降り風も吹く中だったので、決して快適な登攀ではなかった。いつか快晴のなか登りたいものだ・・・。
 次回チャレンジするとすれば、今度は登攀スピードをあげるようにしたい。

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