阿弥陀北西稜

2004年12月28日〜29


12月28日
【コースタイム】
美濃戸7:10〜11:40行者小屋前テントサイト〜阿弥陀岳北西稜取付の下見

行者小屋前にテントを設営して、来る途中目星をつけておいた阿弥陀岳北西稜取付への入り口かもしれないとおぼしき所を下見に行く。行者小屋から10分ほどの所、北西稜の向かって左側面を目指す位置というのがポイント。登山道の脇の木にビニールテープと布がつけてあった。トレースはなし。
 登山道から、北西稜方向へ山裾を少し斜上気味に横切るという感じで進む。樹林の中で傾斜は緩い。ガイドにトラバース気味に行くと書いてあったので、急斜面を横切るのかと思っていたが、ちょっとイメージが違った。
 登山道から入って15分程度だろうか、涸沢(沢床の幅4、5mくらいか)にぶつかる。我々はその沢を10mほど登ってすぐ右の北西稜の側面に取り付いた。最初のうちはともかく、結構急斜面の樹林帯だ。今回はあまり雪がないので楽だったが、雪が多ければラッセルが大変だろうと思われた。宮内さんが登りやすそうな所を選んで登っていく。
 まもなく、稜線上に出た。多少やせているが、立派な尾根だった。稜線を少したどると、樹林帯が岩でとぎれたところに出た。ガイド等にある露岩だ。ルートは、この稜線を忠実にたどればいいわけだ。そこまで確認できたので戻ることにした。露岩直下あたりから側面をトラバース気味に下りる良いルートはないかと見ながら下ったが、どこも急で、結局来たルートが一番良さそうなので同じルートをとって返した。

12月29日
【コースタイム】
行者小屋前テントサイト6:05〜6:50露岩7:00〜7:30小ピーク〜11:40第2岩峰上11:50〜12:15阿弥陀岳頂上12:20〜11:30行者小屋前テントサイト

 昨日の天気予報では、今日はくもり時々雪。6時05分行者小屋前テントサイトを出発する時は曇天。昨夜雪が少し降ったようだが、昨日つけたトレースは消えていない。そのトレースをたどって稜線へ。稜線へ出たころ小雪となる。
 そのまま露岩まで行き、その下でアイゼンとハーネスを装着した。露岩は右から巻くが、傾斜が急で積雪がそれほど多くないため足場が不安定で少し緊張する。すぐにやせ尾根から雪の斜面をひと登りすると好展望の小ピークに着いた。行く手に岩峰が黒々と立ちはだかり、さあ行くぞと気合いが入る。
 小ピークからはリッジで、右の摩利支天沢側かリッジをなす岩の上を行く。途中右側の草付を巻くところもあった。その途中足場の良いところで登攀具を装着した。そのままリッジを進むと岩峰の基部に出る。
 岩峰の基部からは岩峰の右側面にバンドがあったが、ただ道なりに進むという感じだった。ガイドの図から想像していた右斜め方向に進むバンドという感じではなかった。そのため岩峰の基部でアンザイレンすることなくノーザイルで進んだところ、途中ハーケンがあり、進む先に見えるのは草付のようなので、リーダーに伝えると、宮内さんは一瞬考えていたが、そのまま進んだ。
 階段状の草付の基部にもアンカーが取れるようなものは何もない。V級なのでそのままノーザイルで行くことになり、慎重に登った。
 草付を登りきったところで少し右に、左斜上するルンゼが見えた。手前の壁にハーケンが2枚あった。それをアンカーにする。宮内さんが少し上までノーザイルで登っていたので、ナッツを設置し自己の安全確保をとってザイルを下ろしてもらい、アンザイレンした。ちなみに私はこのナッツにも慣れていないので、はずすのに少し手間取った。ナッツキーを持ってきていてよかった。
 最初ルンゼ左の階段状を上がり右に2mほどトラバースしてルンゼに入った。ルンゼを15mほど登って左のリッジに上がって数mでペツルのハンガーボルトが打たれた3人くらい立てそうなレッジ(「安定したビレーポイント」)に上がった。
 そこが第2岩峰の基部。その真上に残置スリングが垂れ下がっている。ここを直上することもできるようだ。今回は初めてなのでポピュラーなルートと言われる左から回り込むルートを取ることにした。
 左から回り込むのは、北壁側の雪のバンド(15m位?)をトラバースするのだが、かなりしっかりしたバンドだった。途中ハーケンと立木にプロテクションを取ってあった。バンドが終了するところで雪面を2,3歩上がった。そこで宮内さんが確保してくれていた。
 ここからが北西稜の核心部だ。宮内さんに頼んで私がリードをやらしてもらうことになった。まずビレーポイントから右上するバンドに上がる。バンドまでの高さは2mくらいか。立ってはいる。このバンドに上がるのに苦労している記録もいくつか見た。私は、バンドへの上がり口左壁にしっかりしたハーケンがあったので、それにカラビナでスリングをかけA0で途中まで上がると、いい位置に手のひら大のフレーク状のガバがあり、それでバランスを取ってバンド上に片足を上げた。その先に残置スリングがあったのでそれを使わせてもらってバンドに上がった。5mくらいバンドを進む。バンドの下はスパッと切れた北壁。
 バンドの終了点は、手前に凹角(バンドから2歩程度上がる)、そのすぐ隣にクラックがあった。手前の凹角を登ることにする。
 この凹角は、ガイドや記録でアブミを使うとも書いてあったので、なんとはなしに私は、最初から立ったジェードル状だと思いこんでいた。しかし、実際は、完全に立っているわけではなく、例えて言えば向かって右側だけに手すりがある滑り台といった形状をしている。滑り台状の部分の長さは3〜4mくらいか。右側の手すりにあたる部分は壁になっていて手掛かりはなさそう。滑り台の床部分と手すり部分の合する角(ほぼ直角)の部分にはハーケンが5枚くらいべた打ちしてある。滑り台の床状が終わるあたりでは右側の手すりにあたる壁も多少低くなり、手掛かりとなりそう。
 滑り台の床状の先は正面に立った壁(1.5mくらい?)が立ちふさがる格好だ。その壁下半分は滑り台状のスラブがそのまま立ち上がった感じで、上半分は別の岩の部分というふうに見えた。アブミを使うとしたらここだったんだろう。
 さて、どう登ろうか。アブミを使うかもしれないと想定して4段のアブミを作ってゲレンデで練習してきた。しかし、見るとA0で行けそうに思えたので、アブミは出さないでやってみることにした。まず滑り台状部分は、ヌンチャクをかけて手で持ち左足はアイゼンをフラットに岩に押しつけ、右足は手すり部分との角に押し当てた。この部分は、まだ傾斜がそれほどでもないので左足をフラットに腰で外から押しつけて立つことができた。その繰り返しで進んだ。
 正面の壁が立っている部分はのぺっとしていい足場はない。しかし、よく見ると雪のつき具合から数o程度窪んだように見えるところが2ヶ所あった。重心を乗せればアイゼンの前爪でなんとか立てそうだ。ただ1歩目の方は、極浅い窪みで、できればしっかりした手掛かりが欲しい。しかし、それらしきものはない。立った壁の上半分の正面にある1枚のハーケンにスリングをかけて手掛かりとするしかなさそう。
 そこで、滑り台の床と手すりの角のハーケンに取ったA0ヌンチャクを持って引きつけてバランスのよくない体勢で極浅い窪みの左足の上に腰を移し上のハーケンにヌンチャクをかけようとした。一旦その左足のフットホールドに乗ったが背伸びしないとそのハーケンに届かない。ちなみに私は163p、背が高い人なら十分届くだろう。ここで背伸びしたときザイルに引かれてはがれてしまった。確保者に適切な合図をうまく送れなかったためだ。反省。
 少しレスト。ここは右足の位置と左足のスタンスがかなり離れているため、その左足のスタンスに乗るのにかなりダイナミックに腰を移動させないといけないが、左方に手掛かりがないためかなり苦しい。そこで今度は右のハーケンにスリングをつけたカラビナをかけ、簡易アブミとして右足を乗せて立ち上がり左足との距離を縮めた。そして左足を極浅い窪みに乗せてその上に重心を移し、すぐに右足を上げ、さらに左足をもう少し窪みの深いスタンスに乗せ、右足を右壁の小さな棚状になったところに乗せた。それで正面のハーケンに左手が届いた。
 このとき念のためにまず自己確保用のデイジーチェーンをそのハーケンにかけた。そしてデイジーチェーンをはずしてプロテクション用のヌンチャクと取り替えようとした。しかし右手のA0ヌンチャクを引きつけて不安定な体勢で行うことになるのでなかなか苦しい。デイジーチェーンを抜くことは抜くがヌンチャクに取り替えるところまではいかず、またデイジーチェーンをかけた。結局デイジーチェーンのカラビナはハーケンにつけたまま、巾10oのテープスリングをハーケンに通してそれにヌンチャクをかけた。最初からそうすれば良かった。さらにテープスリングではなく、4oのロープスリングの方が差し込みやすいのでそれをダブルにしてヌンチャクをかけた方がよりスムーズにいっただろう。万が一落ちた場合を考えても落下距離は1m程度だからそれで充分だろう。ヌンチャクのカラビナにフィフィをかけて体勢を保持してデイジーチェーンのカラビナをハーケンからはずした。少しレスト。
あとは右側にガバがあるのでそれを取って正面の上半分に上がった。右腕が疲れたが、ちょうど右腕の位置に例えは悪いがギロチン台の首を置く部分のように窪んだ形状のところがあり、そこに右腕を入れて終了点へ上がった。
 第2岩峰から先は簡単な雪稜で摩利支天の基部をトラバースして御小屋尾根との合流点から阿弥陀岳の頂上へ。中岳とのコルに下りて夏道通しで行者小屋に戻った。
 
 人工登攀ルートは私にとって初めてだったので、第2岩峰では手間取りました。もっといい登り方もあったかもしれません。その間寒さをこらえて確保していただいた宮内さんに感謝します。今後の教訓となることもいろいろありました。今回は、積雪もそれほどではなく、天気も小雪程度で風も微風という非常に恵まれたコンディションでの登攀だったと思います。機会があれば、再挑戦するのもいいかなと思います。

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