剱岳八ツ峰Y峰Cフェース

日程:2023年7月29日夜〜8月2日

【交通手段】毎日アルペン号(バス)

【行動概要】
 前夜行(入山出発地まで) 竹橋22:30 = ??(毎日アルペン号)= 7:00室堂

 1日目(入山)
室堂8:20 → 10:58別山乗越(18分休)→ 12:00剱澤キャンプ場(12分休)→ 13:55長次郎谷出合(20分見学) → 14:40真砂沢キャンプ場(テント設営)

 2日目(Cフェース)
3:00起床・真砂沢キャンプ場4:00 → 5:04長次郎谷出合→ 8:50Cフェース取付9:10 → 13:20Cフェースの頭(40分休)14:00 → 18:00XYのコル18:05 → 19:10長次郎谷登り返し→ 20:30熊ノ岩(ツエルトビバーク)

 3日目(テント場移動)
4:00起床・熊ノ岩5:25 → 8:53長次郎谷出合→ 9:35真砂(テント撤収)10:50 → 15:35剱沢キャンプ場(テント設営)

 4日目(下山)
4:50起床・剱沢キャンプ場6:37 → 7:33別山乗越(12分休)7:45 → 10:45室堂(荷物整理)11:00 → 11:15みくりが池温泉(入浴)11:45 → 12:00室堂(買い物)12:30 = ??(毎日アルペン号)= 20:50新宿駅西口

【行動記録】
7月29日(土)晴れ 前夜行
 昨年夏の剱岳には、北陸新幹線で行った。朝発昼移動で楽だが、いかんせん室堂に到着するのが11時50分と遅い。入山時の行動が窮屈になった。そこで今年は以前に戻って毎日アルペン号を使うことにした。早めに集合してバスの受付を待っているとき、元会員のHASEさんと会った。八ヶ岳に行かれるとのこと。懐かしくうれしかった。

7月30日(日)晴れのち曇り 入山
 この時期早朝に、室堂に着くと「寒っ」となるのだが、今年はまったくそれはなかった。帰りに、みくりが池温泉で汗を流すために、今回初めて室堂のコインロッカーに着替え等を預けた。普通の大きさのものが200円なので、リーズナブル。衣類を整え、水を汲み、荷物を整理して出発した。下界の猛暑で熱中症も警戒したが、風がありそれほどでもなかった。

 「1カ月半ほど早く融雪が進んでいる」との事前情報があった長次郎谷の雪渓の状態について剱沢の富山県警警備隊派出所で聞いてみた。「行った人からの情報では、出合も崩落があり、途中からは右岸の岩場を行くことになる。聞かれたら『お勧めしない』と答えている」とのことだった。計画書を提出し、「明日行ってみる」と伝えた。

 剱沢は昨年に比べても極端に雪が少なく、土がかぶさったところもあった。長次郎谷出合は確かにかなり大きく崩落して、底には水が音を立てて流れていた。2人パーティが左岸のガレ場斜面を伝って下りてきた。聞くと、やはり長次郎谷中間部の雪渓崩落個所では、ほぼ台地上の岩場に逃げざるを得ず、雪渓と岩の乗り移りができるところがあまりないとのことだった。私は30年くらい前に1度か2度、雪渓の丈夫さをピッケルでチェックして岩場に移ってしばらく歩いた記憶があった。行ってみて、安全上無理なら引き返すことにしようと話し合った。

 真砂沢キャンプ場が見えると、雪渓との距離が大きい。やはり、雪が少ないのだ。南無の滝も露出していた。テント場にテントはなかった。

7月31日(月)晴れのち曇り Cフェース登攀 
 3時に起床して、4時に出発した。日の出は4時40分ころで、少し前から明るくなるので、30分ほど前倒ししてもよかったと後で思った。

 長次郎谷の出合からは雪渓の崩落個所を避けて脇のガレ場、畝のように土が乗って盛り上がったようなところを辿って長次郎谷に入った。八ツ峰のT・U峰間ルンゼあたりまで来ると、先の雪渓が崩落していて雪渓通しではいけないと分かる。
 雪渓の行ける所まで行って、右岸の岩の台地に移れるところを探すが、雪渓が岩と接していて渡れるところはなかった。下流に戻って探すが、接続しているところはない。間が狭く岩に移れるところもあったので移ってみたが、岩がスラブ状で滑るとシュルントの中に滑り落ちるので危険。やめてさらに探す。

 雪渓の縁が厚みがあり、岩場の方も平坦なところがあったので、少しハングした雪壁にバイルで足場を刻んで渡った。

 あとは岩の台地を40分ほど辿り、再度雪渓に戻った。岩の台地上で、前日にお湯を入れておいたジフィーズの朝食を摂った。

 あとは問題なく、Cフェースの基部に至った。先行パーティが登りはじめていた。
 落石を避けるためハングした側壁の基部で準備をした。取付のビレイ点は離れた位置にある残置ハーケンを組み合わせて使った。
1P目
 Nisリード。目の前のスラブをやや右上気味に直上して右下から来る凹角に上がったところで切った。トポのピッチ30mというとこのあたりかと考えた。以前、ルート取りが悪かった可能性もあるが、もっと上の行き止まりまで行って切ったとき50mで少し足りなかったのでそうした。しかし、結果として下すぎて2ピッチ目の終了点に届かない場合を考えて、念のためNakさんにクラックの先の行き止まりで右のフェースへ移る凹角の手前の支点で一旦ピッチを切ってもらった。その支点の手前にも2カ所ほどビレイ点にできそうな支点があるのを確認した。Nakさんに引き続き2ピッチ目をリードしてもらった。

2P目
 Nakリード。凹角の登りを「難しい」と言ったが、順調に登っていった。真っ直ぐ上がったところにあるビレイ点で確保していた。もっと右にもビレイ点があった。なお、熊ノ岩に目をやるとテントが一張あった。

3P目
 Nisリード。右のビレイ点の方に行ってそちらからフェースに乗り、左上した後リッジ脇を直上して狭いレッジでビレイした。
4P目
 Nisリード。段々になったリッジを直上すると、両側がスッパリ切れたリッジ。そこを少し登ったあと水平のナイフエッジをトラバースする。絵になる有名な箇所だ。トラバースし終わったところでピッチを切った。

5P目
 Nakリード。ハイマツの間を抜けていくように登ると、Cフェースの頭の終了点に着く。
 Nakさんが終了点に着いたとき、雷鳥が砂浴びをしていたとのこと。40分ほどゆっくり休憩した。

下降
 Y峰の頭からXYのコルへの踏み跡を辿る。比較的はっきりしている踏み跡を右の方へ辿る。白く枯れたハイマツに何本ものスリングが巻かれたものがあった。それを横目で見ながらもう少し下るとハイマツの中にテープスリングがあった。その下はやや緩傾斜のルンゼ状になっていた。50m懸垂下降した。そこから10mほどクライムダウンしたが、その下が下りられそうになかった。なお残置の懸垂下降支点もなかった。

 そこで三ノ窓側のハイマツ帯を漕いで草付きの緩傾斜のスラブに向かった。ハイマツ帯を抜けるところに7o程度のロープスリングが掛かっていた。支点にするには不安なので捨て縄のテープを補充した。ハイマツに引っ掛けたのかルベルソを失くしたのでフリクションヒッチでバックアップを取って半マストで懸垂下降した。下降していくと二つほど残置支点があったが、支点が抜けていたり、不安定な石にかかっていたりで使えそうになかった。

 周囲を見回すと、下に向かって右のスラブ壁を2、3mトラバースしたところにしっかりしていそうなハイマツがあった。行ってみるとその下方にルンゼがあって、ルンゼに下りるとXYのコルへ辿れそうに見えた。
 ソウンスリングをハイマツに残置して懸垂下降の支点にした。ルンゼの途中に懸垂下降した後、ルンゼをクライムダウンした。実際に下りてみるとXYのコルよりだいぶ三ノ窓側に入っていた。側壁をへつるようにしてXYのコルに着いた。時間がかかってしまった。

 下りてみるまでは、クライムダウンしたルンゼはAフェースとのコルへのルンゼかと思ったが、あとで考えてみるともっと三ノ窓側のルンゼだったのではと思う。
 そもそも最初に見送った枯木の懸垂支点の場所から、今回最初に下降したルンゼと反対の右側に下りるのが通常使用される下降ラインだったのではないかと想像した。Cフェースの頭からXYのコルへは、もうだいぶ前、過去3回ほど下りたことがあるが、いずれも懸垂下降したのは1回だったと思う。

帰路からビバーク
 ガラ場を下り、草付きを長次郎谷と平行に辿った。雪渓を歩くより速いかと思ったが、よりしっかりしたAフェースへのアプローチの踏み跡から雪渓に下りて雪渓を下った方が速かったかもしれない。
 19時過ぎに岩の台地の少し上まで来たが、長次郎谷下部にガスが湧いてきて視界がきかなくなってきた。これで暗くなってくると割れた長次郎谷を下るのは危険なので、熊ノ岩まで登り返してビバークすることにした。

 Cフェースの真向かいにあたるあたりで熊ノ岩に移れるところがあったのでそこから少し歩き、平たん地に2-3人用ツェルトを張ってビバークした。エマージェンシーバッグで快適に眠れた。なお、熊ノ岩には他にテントが1張あった。水場を教えてもらった。
8月1日(火)晴れのち一時雹・雨のち曇り 熊ノ岩〜真砂沢キャンプ場〜釼沢キャンプ場
 昨日よくアルバイトしたので今日は剱沢キャンプ場への移動のみとした。爽やかに目覚めてゆっくり下る。
 右岸の岩棚から長次郎谷雪渓への乗り移りは、昨日の移動場所はシュルントの幅が広がっていて移れそうになかった。別の場所で、岩場の足場が小広く平坦で雪渓の端も厚い場所があった。少しの距離だが念のためロープを出し、ハーケンを打ってセルフビレイを取り、パートナーのピッケルを借りて空身でダブルアックスで越えた。ザックはロープを使って移し、後続は腰がらみで確保した。
 真砂沢キャンプ場に戻ると真砂沢ロッジのご主人が「昨日はビバークですか? お疲れ様でした。」と声をかけてくれた。剱岳周辺の山小屋のご主人は個々の登山者のことも気にかけてくれるので心配頂いていたのかもしれないと思った。

 テントを撤収して剱沢に向かった。剱沢雪渓から夏道に上がるころ、黒雲が西の方に見えた。雨具の上を着た。しばらくすると本格的に降りだし、雹も降ってきた。雨具の下も履いた。上空に寒気が入ったのだろう。幸い雷はなかった。
 剱澤小屋に着くころにはほぼ雨は上がった。私はビール、中川さんはコーラを買った。剱沢キャンプ場は、お盆などに比べるとテントの数は少ないが、そこそこはあった。特に学生さんたちが元気そうだった。大学山岳部廃部の危機が言われたころと様変わりの感があった。

8月2日(水)晴れ 下山
 5時起床の予定だったが、そんなに余裕がないと思い直し、少し早めに起きた。
 別山への分岐先で4羽の雷鳥のヒナが登山道付近でエサをついばんでいた。少し離れた岩の上に母鳥がいて「クー、クー」と警戒の鳴き声だろうか、発しながら見守っていた。
 御前小屋の前から見晴るかせる剱に別れを告げ、雷鳥坂の下りに入る。昨年雷鳥沢キャンプ場手前でこけて肋骨にひびが入ったので、少し多めに休みを取り心して下る。途中、スマホで毎日アルペン号を予約した。
 一旦室堂に行き、コインロッカーから着替え等を出し、ザックをデポして、みくりが池温泉に戻り、お風呂に入った。
 12時半発の毎日アルペン号で帰路につき、新宿で解散した。

 今回は、春からの膝痛で整形外科医と相談しながらの山行となった。ヒアルロン酸注入、テーピング、痛み止め薬、ストックの助けで無理なく全うすることができた。割れた長次郎谷雪渓の登下降、少々ルートミスした下降、熊ノ岩でのビバーク、とプチ冒険チックでおもしろかった。なお岩棚から雪渓への乗り移りの際ハーケンを1枚打ったが、”念のため”と考えるなら持っていたもう1枚のハーケンも打つべきだったと反省した。
記録 Nis



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