2022年夏山合宿 長次郎谷左俣から剱岳と八ツ峰Y峰Aフェース

日程 2022年8月6日(土)〜10日(水)

 1日目:8月6日(土) 入山
東京6:16=北陸新幹線=8:25富山9:15=富山地鉄=10:23立山10:40=立山ケーブル=10:47美女平11:00=立山高原バス=11:50室堂

 今回は、協議して運転手の負担を考え公共交通機関で行くことにした。その場合、前夜東京(竹橋)発の毎日アルペン号か北陸新幹線+アルペンルートのどちらかになる。
 夜行バスは以前よく使った。翌日の朝7時頃には室堂に着く。ただ、夜行なので疲れると言えば疲れる。料金は1万7500円。ゆったりしたい場合にWシートオプションを利用するとプラス6000円かかる。以前と比べると大分値上がりしている。
 一方、北陸新幹線だと朝早いとはいえ夜行よりは楽だ。東京から富山まで2時間強で到着する。それに料金は、アルペンルートを含めて通常料金で1万7982円だ。
 というわけで、今回は北陸新幹線で富山まで行き、アルペンルートで室堂に入ることにした。
 ただ実際に利用して見ると、富山まではわりと早く着くが、アルペンルートには待ち時間があり到着が昼になる。翌日から本格的に行動する場合、押せ押せになり、一考を要すると思った。(後述)

11:50室堂12:30 → 13:10雷鳥平(休)13:25 → 14:20雷鳥坂途中(休)14:35 → 15:30別山乗越15:45 → 16:20剱沢キャンプ場(テント設営)16:50 → 17:40剱沢雪渓下見17:50 →19:00剱沢キャンプ場

 8月6日午前11時50分に室堂にバスで着いた。そこそこ観光客はいた。天候は曇りで、山の上部はガスがかかっていた。室堂でトイレ、身支度、水汲みをした。室堂にはコインロッカー(200円、400円)があり、下山用の着替え等を預けることも考えたが、入浴予定のみくりが池温泉が室堂から離れていることもあり、預けないことにした。準備体操をした後、12時30分に室堂を出発する。途中雷鳥沢のキャンプ場には、特に多くもなく少なくもないテントが張られていた。岩イチョウなどの高山植物はなぜかあまり元気がない。

 別山乗越までは短時間雨がパラついた。乗越から見える剱岳も本峰を含め北側は雲に覆われていた。いつもより遅い入山なので剱沢キャンプ場の混み具合が気になっていたが、まあまあの場所が空いていた。
 テントを設営後、受付を済ませ、隣室の警備隊に長次郎谷左俣の様子を聞いた。「5日ほど前に源次郎側から見たら上部にかなりひび割れがあった。写真もあるから」とスマホを見せてもらった。また直近の天気については「昨日は雨が降らなかったが、その前はずっと降っていた。」とのことだった。
 写真を見た感じでは、それほど大きなクラックには見えなかった。これが認識不足だった。理由を含めて後述する。

 時間は遅くなったが、明日の行動をスムーズにするため剱沢の雪渓に乗り移る場所まで下見・確認に行くことにした。必要な行動食、水、雨具、ヘッドランプ等を持って出発。じきに雨が降り始め、本格的な降りになったため剱沢小屋の軒先を借りて雨具上下をつけて、沢状の左岸の踏み跡を辿って、下部で右へ行って剱沢の右岸の踏み跡を辿る。所々にペンキ印がある。途中クロユリの滝は完全に露出していた。雪解けは早そうだ。
 踏み跡が雪渓に近づくあたりで、雪渓の状態を確かめ、そこで雪渓に乗れそうなので目印の石積みをしてテントに帰った。
 今回の食事はすべて個食と設定したので、各人がそれぞれ準備し、ジェットボイルとコッヘルでお湯を沸かして夕食を済ませ、翌日の朝食弁当を準備した。就寝は8時半〜9時頃になった。

2日目:8月7日(日) 長次郎谷左俣〜剱岳〜別山尾根
3:00 起床 → 剱沢キャンプ場発4:05 → 5:35 長次郎谷出合(休) 5:50 → 8:45 熊ノ岩(休) 9:18 → 13:30 長次郎のコル(休) 14:00 → 14:38 剱岳(休) 15:00 → 17:40 武蔵のコル(休) 17:50 → 18:40 剣山荘 → 19:05 剱沢小屋 19:15  → 19:35 剱沢キャンプ場

8/7朝3時に起床。朝食は弁当にして4時過ぎに出発した。クロユリの滝を過ぎ、前日に下見した場所でアイゼンを着けて雪渓に移った。平蔵谷先の源次郎尾根支尾根への取付にはすでにパーティが取り付いていた。長次郎谷出合で1本立てて長次郎谷に入る。長次郎谷には他のパーティは見当たらない。雪渓は八ツ峰側に大きなシュルントができていて、源次郎側には水が流れていた。
一昨年会のパーティが八ツ峰下半の岩稜縦走に行こうとしたが、シュルントが大きく開いていてTU峰間ルンゼに取りつけず撤退したとのことだったので、状態を見に行った。やはり雪渓が大きく割れていたが、スラブの手前に1個所だけかろうじて繋がっている個所があった。ただ渡った後、テラスに上がるのに数メートル攀じなければならない。そこが容易かどうかは見ただけでは判断しかねた。

見学はそれくらいにして戻り長次郎谷をさらに上がる。すぐに岩場が二つ島のように雪渓から出ているが、最初の岩場の右側にはクレバスが真横に走っていた。岩場の左側の雪渓にも穴が開いているところもあったが、行けそうだったので、そちらを通り、途中岩の上に上がった。水が流れていた。この岩場の水の流れは今まであまり経験がないが、三日前までの長雨の名残りだろうか。そこで休憩して朝食を摂った。私は昨夜お湯を注いでおいたフリーズドライのワカメごはんだったが、まあまあ美味しかった。
この頃は、ゆっくりペースだが、まだまだ時間的には余裕があると思っていた。
熊ノ岩下に行くと、両岸の側壁で狭められた左俣の入口の雪渓はやはり割れていた。かつて繋がっていてそのまま通ったことがあるが、今や割れているのが普通のようだ。右俣をしばらく登って熊ノ岩の台地に上がった。珍しいことに、テントは2張しかなかった。テントのお二人は「そうなんですよ。今(Bフェースを)登っているパーティと2パーティだけなんですよ」と言っていた。

台地の上でしばらく休憩したあと左俣に乗った。雪渓上部に近づくと、クラックが現れた。最初は繋がっていて安全な部分を探して通過できた。以降次々とクラックが出てきた。ルートファインディングしながら、雪壁をアックスを振るいながら登り、ロープで後続を腰がらみで確保して通過した。ロープは7o30mの補助ロープを使用した。この長さで後続のセカンドをミッテルで上げる方式で確保できた。確保場所は次のクラックの中に入って行ったので、間に雪の壁が入るし、雪の縁の摩擦も利用できるから十分安全に確保できた。
 長次郎のコル手前には7、8mほどのハングした雪壁があった。ここはどこも越えられそうにない。右側(左岸)のシュルント(雪と岩の間)を辿る。最初は段々になっていたのでスリングのお助けだけで抜けた。少し行くと隙間はかなり狭く乗り越す岩はハング気味で手足のホールドも乏しかった。側壁の岩の方がまだよさそうだったので、ロープをつけザックを下ろしてそこを登り少しトラバースして上に出た。尖った岩にスリングをかけてアンカーにすることができた。それに確保支点を作り、二人に登ってもらった。
そのあと雪面に戻り繋がったスノーブリッジを渡って長次郎のコルに出ることができた。13時半、左俣に4時間強かかった。ある意味では面白かったが、当初の”快適な雪渓歩きで本峰へ”という思惑とはほど遠いものとなった。時間も予定より大幅にかかってしまった。リーダーの認識不足であった。
コルでは大休止し、ついでに北方稜線の長次郎の頭の直登ルート、一般的な長次郎谷側を巻くルートを説明した。
予定では明日は八ツ峰Y峰フェース登攀だが、予備日も1日取ってあるので、今日のアルバイトや遅くなる夕食を考え、明日は休養日とすることを相談した。翌々日の天気を見て決めることになった。場合によっては明日登攀するという元気があるようなので、休養日でもテントを剱沢から真砂沢出合に移動することを提案した。
コルからリッジの池ノ谷側を巻くように登り、ガレ場の踏み跡を辿り、雪田(剱の帽子)の右を通ったあと岩のゴーロを登りきると本峰の頂上だ。14時過ぎ、さすがに誰もいなかった。
頂上で少し休んで、別山尾根を下って剱沢キャンプ場に戻った。途中、二人とも明日は真砂沢に移動しないで、剱沢にいたいとの話があった。私ももともと完全休養がいいと思っていたので、そうと決まった。ネットで見た天気予報も明後日は晴と出ていた。(実際には多少違ったが…)なお、今回計画するにあたって、平蔵谷を下降路にする選択も考えた。結果は選択しなかったが、帰り道に一応観察した。平蔵谷の方はずっと繋がっているようであった。

3日目:8月8日(月) 休養日
それぞれ適当に起床した。AさんとHさんは早く起きて水で衣類を洗って乾かしていた。私も湿った道具・用具類を乾かし、Tシャツと靴下を洗った。時折太陽が顔を出すものの長時間は出ないので”即乾!”とはいかなかったが、風があったので厚物を除いてほぼ乾いた。隣のどこかの学生たちが張っていたテントが撤収されていて、そこはまっ平だったので、そちらへテントを移動した。昼食、夕食を一緒に摂って明日の登攀の打ち合わせをした。それ以外は適当に昼寝をしたり、辺りをぶらぶらしたりまったりして過ごした。本峰はほとんどずっとガスに包まれて顔を出さなかった。
一応昨日の長次郎谷左俣の様子を報告しようと思い警備隊の詰め所に行った。隊員の方が一人いたので話しかけた。警備隊は、ちょうど今日長次郎谷左俣に行っているとのことだった。その人が言うには、「最近は8月になると、もうクラックができるのが普通になっている。今頃が一番難しい。8月は昔のように歩くだけで行ける状態ではない。」とのことだった。

4日目:8月9日(火) 八ツ峰Y峰Aフェース
2:30 起床 → 剱沢キャンプ場発3:20 → 4:55 長次郎谷出合(休) 5:10 → 7:45 Aフェース基部 8:15 → Aフェース魚津高ルート → 12:10 Aフェースの頭(休) 12:35 → 12:50 懸垂下降支点 13:05 → 13:40 XYのコル 14:15 → 14:40 長次郎谷雪渓 14:55 → 16:00 長次郎谷出合16:15 → 18:30 剱沢キャンプ場

今朝も朝食は弁当にしてヘッ電を点けて出発。風が強い。剱沢小屋から先はそれまでよりもっと歩きやすいところを通ろうと左端の踏み跡を辿ったところ剱沢源頭の左岸に出た。道は右岸についているので渡れないか見たが、あまりよくないので、少し戻ると草の中に右岸への踏み跡があり、そこを辿るとすぐに目印のある道に出た。前々日と同じ場所でアイゼンを装着し雪渓に乗った。

長次郎谷出合で休憩態勢に入ろうとしていると、後続の6人パーティが来た。どこを登るのか聞かれたのでY峰のC、Aフェースと答えると、彼らは学生さんで、3人、3人でCフェースの剣稜会ルートとRCCルートを登るとのことだった。「自分たちは各3人パーティで遅いので先に登ってください」と言われたが、「いや、我々はゆっくりペースだから取付に着く前に追い越されてしまうよ」と答えた。実際、私たちが休憩を終えて先に出たが、すぐに追い越されてしまった。私たちが休憩中に、真砂沢の方から学生っぽい3人パーティが先行していった。まあ、これでは、我々はまずはAフェースになるかな、と思いながら歩を進めた。

まだ慣れないせいや二人とも山の本ちゃんの登攀は初めてなので緊張のせいか、ペースが上がらなかった。熊ノ岩下の二俣を過ぎて右俣を少し登り、C、Aどちらを登るにしてもまずAフェースの基部に行くことにしていたので、適当なところで雪渓を出て、ガレ場の踏み跡を辿った。
二人にとっては、ガレ場、ザレ場が怖かったそうだ。初めてだとそうだろうと思う。基本的には真上から(鉛直に)荷重すると石はあまり動かない。そのためには小股で歩いて重心移動の距離を小さくする。そして石が崩れるのに負けないようにリズミカルに歩いていく。安定した場所があったら、一旦そこで区切るといい。
ガレ場を登っている途中からCフェースを見ると、剣稜会ルートを3人パーティが登っていた。Aフェースの基部に出ると、誰もいなかった。
そこで、Aフェースの魚津高ルートを登ることにした。あらかじめ相談して決めていた順番で登った。風が強くて少し寒い。


<1ピッチ目>
Nリードで取付く。凹角状を直上し、頭上を岩で押さえられたところで右にトラバースする。ここが、本ルートの核心か。右足の置き場には大きなホールドがなく、フリクションを効かせて右へ上がった。

そこから凹角状をやや左上すると壁の左に出っ張ったテラスがあり、その壁に古いがハーケンが4、5枚あった。それをビレイアンカーとした。

<2ピッチ目>
 このルートのハイライト。リッジ沿いで高度感が出るが、難しくないので、それを周りの背景と一緒に楽しめる。Hさんがリードで取付き快適に登攀。

<3ピッチ目>
 Aフェース頭の終了点へ抜ける最終ピッチ。本チャン初リードのAさんがチャレンジ。少し登ると「懸垂下降の支点があるので、そこで切っていいですか?」との声。行ってみると、ルートの左の壁に立派な支点があった。「左ルート」のためのものか、あるいはXYのコル側ではなく、直接長次郎谷側に懸垂下降するためのものなのか…。
いずれにしても終了点ではないので、Nが引き継いでリッジに戻り、ハイマツ、恐竜の背中のような岩稜を辿って頭に着いた。12:10登攀終了。

狭い頂上からは360度の展望。X峰のピナクル、そしてCフェース、熊ノ岩と長次郎谷。Cフェースには、くだんの学生さんたちが剣稜会ルートの4ピッチ目ナイフエッジを登攀中。右のRCCルートパーティもほぼ同じ高度あたりを登攀中。
リードを交代交代でやったこともあるが、登攀時間約4時間。Cフェースはそれ以上かかる可能性大、Cフェースの頭からの下降も考えるとテント帰着が相当遅くなると思われるので、今回はCフェースは割愛することを提案し、そうすることになった。Cフェースを登攀する学生さんらを見て、次回のおたのしみに。
写真を撮って、XYのコルへの懸垂下降支点に移動。頭から少し戻ってハイマツの中へ踏み跡を辿る。ちょっとした岩場、短いスラブを下りてハイマツが切れるところに懸垂下降支点があった。
懸垂下降はゲレンデで何度もやっているが、本チャンだと慣れないと案外時間がかかることもある。
降りたXYのコルで休憩し、八ツ峰上半の登り口、Cフェースからの下降路を少し見学した。ガレ場、草付きの踏み跡を辿って熊ノ岩のだいぶ下で雪渓に下りた。二人とも雪渓にだいぶ慣れてきたようだった。 雪渓は行きとは状態がだいぶ変わっていた。行きでは雪に隠れていた岩が帰りには大きく露出していた。融雪の速度は思ったより速かった。途中から雨が降ったり止んだりの天気となった。

帰り道では剱沢の右岸に首を長くしたチングルマ、ミヤマダイコンソウのちょっとした群落があった。なごむ。
途中、Cフェース登攀の学生さんの仲間から、彼らが戻ってこないので会わなかったかと聞かれ分かっていることを答えると、捜しに下って行った。

18:30に幕場に戻った。私たちのテントが潰してあって5、6個石が乗せてあった。出発するときも風が強かったので潰していこうかとも考えたが、張り綱をチェックしただけだった。どなたかがやってくれたのでしょうが、感謝です。くだんの学生さんたちもしばらくして戻ってきた。よかった。

5日目:8月10日(火) 下山
5:30 起床 → 剱沢キャンプ場発 6:40 → 7:45 別山乗越(休) 8:00 → 9:30 雷鳥平 9:45 → 10:20 みくりが池温泉(入浴) 11:25 → 11:35 室堂 12:30 =毎日アルペン号= 21:00 新宿駅

今日は下山。帰りの便はバス・毎日アルペン号で帰ることにした。復路はバス代が1万1000円と安い。それに経験上席は空いていると思われた。
入浴時間もあるので、念のため朝食は行動食とした。別山乗越で休憩して雷鳥沢を下った。もう少しで雷鳥平というところでNが転んだ。岩で顎などを打った。指や唇を少し切った。二人が手当てしてくれた。ストックを出して歩き、温泉では汗を流すことができた。温泉から上がって電話でバスを予約した。

室堂では、少し時間があったのでゴミボックスにごみを処理し、買い物をした。Nは奥の自然保護センターのエレベーターで3階へ上がり、石畳を歩いて立山町消防署室堂救急隊分遣所(救急車が停まっているところ)に行った。そのときは医師も看護師さんもいなかったが、保冷剤をいただいた。それで顎を冷やしながら帰ることができた。

以上記録 N

【感想】(N) @今回、アクセスに北陸新幹線を利用し、1日目に剱沢キャンプ場に入山し、翌日行動したが、時間的に押せ押せで余裕がなかった。北陸新幹線を使う場合は、1日目は雷鳥沢キャンプ場に宿泊し、2日目に剱沢キャンプ場なり真砂沢出合野営場に入るくらいがいいかもしれない。

A長次郎谷の雪渓の状態が以前とは変わっていることについて認識不足だった。以前は8月末頃にできるクラックが今では8月になるとできるのが常態になっているようだ。融雪の速度も速い。左俣しかり、TU峰間ルンゼの取付しかりだ。長次郎谷左俣、八ツ峰下半をやるとすれば、7月にした方がいいかもしれない。

B8月に長次郎谷左俣をやるなら、快適な雪渓歩きではなく、雪壁登り、岩登りもあり、場合によっては撤退、源次郎尾根U峰懸垂下降先あたりへのエスケープもありうるルートとして考えた方がいいかもしれない。個々の動きのグレードはそれほど難しくないが、ルートファインディングやロープワークやガレ場、ザレ場の処理など総合的な力が必要かも。
 8月に八ツ峰下半縦走を計画するなら、オプションとして上半を設定しておくのがいいかもしれない。

C下山時転んだときは、考え事をしながら歩いていて注意散漫だった。よく言われることだが、下山時は要注意だとあらためて思った。もう少しこまめに休憩を入れた方がいいかもしれない。

【感想】(A)
@剱岳長次郎谷左俣
 長次郎谷左俣を登るのは、今回で2度目だが、  左俣の雪渓がズタズタに割れて、波の様に何段にも覆いかぶさる様に切り立っているのが見えた。雪壁の割れめの高さも前回より高い様に思った。Nさんがバイルで雪壁を登り返したり、雪壁が覆いかぶさる箇所は壁をへつって登った。Nさんがロープを出してミッテルで登った。長次郎のコルに着いた時は一安心したが、時間が押していたのと、疲労困憊の中での本峰登頂、下山と気の抜けない時間だった。

A八ツ峰Y峰Aフェース
 長次郎谷の熊の岩付近までの雪渓登りで、だいぶ疲れた。Aフェースの取り付きのガレ場にヒヤヒヤした。雪渓を登る為につけていたアイゼンやピッケルはデポすると思っていたが、背負って登る事になった。1ピッチ目をNさんが2ピッチ目をHさんが難なく登って行ったが、実際に取りついてみると難しかった。3ピッチ目は私が担当する予定だったが、少し登った所に支点があった為、そこで一度切って、登頂をNさんに交代した。懸垂の支点まで、ハイマツの中を移動するのも怖かった。Nさんが先に懸垂した後、結び目がかなり下に下がった為、手繰り寄せた際に木の根に引っかかり、ロープが流れなくなってしまった。引っかかりが取り付き付近だったので、Hさんがセルフを取って、支点から降りてロープを直してくれた。剱沢キャンプ場まで剱沢を登り返したが、雪渓の登りは慣れずに時間がかかった。テン場に着くと、強風の為、誰かがテントを潰してくれていた。風が強い時には、予め潰しておこうと思った。

【感想】(H)
@1日目(室堂から劔沢キャンプ場&雪渓下見)
室堂に到着すると標高2400mで天気が曇っているだけあって止まっていると肌寒いくらいに涼しい。ここから雷鳥沢に下った後に別山乗越に向かって登るが、今年は4月から膝が痛かったので全然歩いておらず久しぶりのテント泊装備なので荷物の重さが脚と肩に響く。膝に不安があったのでストックを積極的に使う。やはり合宿の前には体力づくりが必要と実感する。  何とか別山乗越を越えて劔沢にテントを張った後に劔沢雪渓へ降りる個所を探る偵察に出るが、この偵察ではストックを使わなかったところ300mくらいの下りでも膝に違和感を感じる。合宿の日程は長いので膝を痛めては足手まといになってしまうので、ストックを使える場所については極力使うようにしようと心中を決める。

A2日目(長次郎谷左俣ルート)
暗い中、劔沢雪渓に降りる個所について前日に偵察のおかげで、どこに進むべきか分かった。暗い中に出発するような本チャンでは偵察を欠かさないようにしたい。劔沢雪渓に降りてから雪渓は幅が広く傾斜も緩く気持ちよく歩ける。平蔵谷出合は分かりやすい大きな岩がある。これは間違えないだろう。Nさんから源次郎尾根への取り付きと登る箇所の説明を受けた後、長次郎谷出合にて休憩するが、長次郎谷は入り口が狭く圧迫を感じるのと傾斜がきつくなってくるので、ここでストックからピッケルに持ち替えて登るが、アイゼン歩行が慣れていないせいか爪先で登ろうとして脹脛に負担が来るので出来るだけ太ももで登れるように歩き方を注意して登る。

 熊の岩まではスムーズに歩いてきたが、熊の岩から先を見上げるとガスが掛かっており、雪渓の状態は良く分からなかった。ここからは雪渓の傾斜が更に厳しくなり、万が一、足を滑らしたことを考えると恐ろしいので一歩一歩を緊張しながら歩いて標高を100m程上げたところから雪渓が割れ始めて、何とか繋がっているところを探しながら歩くが、遂に雪渓が切れて雪壁を登る事になりロープを出すがここで問題が。スタンディングアックスビレイの仕方がスムーズに出てこない自分の技術不足と、自分のピッケルが軽量化されておりビレイに向いてない製品でNさんのハンマーで叩いた時にブレード側がたたき折れてしまった。雪壁を登るという経験がなかったので緊張しましたがNさんがリードしてロープで確保してくれたおかげでスムーズに登れましたが、技術があればフリーでも十分登れるのかと感じる個所でした。この辺りで装備、技術とも、まだ雪上での登攀に対して不十分だったのを実感して、今年は雪が降ったらしっかり練習したいと感じた瞬間でした。

 ロープを出したあたりで100m程度下の左岸側で一軒家より大きな雪のブロックが落ちるのを見て、ここに長くいることの危険性と、万が一、雪渓を登り切れなかった場合の下降についての難しさを考えると何が何でも、雪渓を登り切らなければと気持ちが引き締まった。
 雪渓の雪壁を登っていくと次第に登るのがきつくなり左岸側の雪渓と岩壁の間をアイゼン装着のまま登るが、これも練習でなく本番では初めての経験だったが、鷹取山でのトレーニングのおかけでスムーズに登れる。一か所、少しいやらしい箇所があったが、ここもNさんのロープ確保のおかげでスムーズに登れて長次郎のコルに出る。緊張の連続だったため精神的に大分疲れを感じました。
 休憩後に北方稜線を歩いて剱岳の山頂に向かうが、一般登山道でないのでマークがないのと、浮石が多いので注意が必要だが、長次郎谷に比べれば全然快適かなと感じ、山頂につく。ここからは劔沢キャンプ場までは難しいところは無いが、日の入りまでの時間と、疲れによるミスを注意しながら戻りましたが1日の行動時間が長く体力的、精神的にかなり辛かったです。

B4日目(八峰Y峰Aフェース魚津高ルート)
この日は3時半には出発して暗い中で劔沢雪渓を下って、長次郎谷出合付近で空が明るくなり始める。疲れが残っているのか長次郎谷出合から登りでペースが上がらない。また、雪渓の状況が前日の休養日で降った雨で変わってきており、長次郎谷下部でも雪渓が割れている箇所が出てきた。長次郎谷を歩くなら7月でないと快適には歩けないのだろうなと思う。

熊の岩下までたどり着き、雪渓から少し上がった大岩にてY峰Cフェースにはすでに登っているパーティーがおり、更にもう1パーティーが待機中という事でAフェースを登るために取り付きへ向かう。この取り付きまでが足元がザレて一歩進むごとに足元が崩れていく緊張した時間を過ごす。取り付き近くは草付きで足場もよくなるが、どうにも足場が不安定な中での歩行が苦手です。  取り付きまで行きストック、ピッケル等をデポするつもりでいたが、背負って登るという事になってアイゼン、ピッケルはザックの中に、ストックはザックの左側へ付けて、天候が曇りのままなので上下雨具で登り始める。1ピッチ目はNさんのリード、セカンドのAさんが登った後に続くが、左から右にトラバースする核心部で身体の左側を壁に入れたいのだがザック左側に付けたストックが壁にぶつかって入れない。何度か挑戦してもストックが邪魔で仕方ないので、この個所はホールドがあまりよくないが右手でアンダーとして持っていたホールドに左手もマッチしてパワームーヴで解決する。本チャンで岩登りするときはザックには何もつけないで登らないと、引っかかり壁に入れない、浮石を落とすようなことがあると実感しました。

 2ピッチ目はリードとして登る。1ピッチ目終了点から5、6m上がったところでリッジを右に越えて少し登るとクラックが出てきて、おそらく此処が核心だと思いますが。ハンドクラックを何か所か決める場所がありましたが、クラックの外にもホールド、スタンスがあり、プロテクションもクラックも含めて残置ハーケンが多く(どれもしっかり効いていた)快適に登れたが、ゲレンデの岩場ではほとんどない浮石が何か所かあるので注意が必要だった。ピッチ終了点はハイマツがあるハーケンが3つ刺さっている箇所で取りました。その5mくらい上に複数のハーケンがある支点があり悩んで上まで登りましたが懸垂下降用と思われる残置スリングがあったので一つ手前の支点であると判断してクライムダウンしました。セルフ用にセットするスリングが流動分散になっており、固定分散でなかった点をNさんより指摘いただいたが、この後も後述のミスが出てくる。

 3ピッチ目はAさんがリードするところで、ビレーする自分がダブルロープの片側をビレー機に通していないというのをAさんが指摘してくれました。緊張して手順がグチャグチャになっていた模様。しっかりビレー機をセットしてAさんに登ってもらいましたが10mほど行ったところで終了点があり、これ以上登れないという事で、AさんからNさんにリードを変わって登る事になりましたが、ここでもロープ捌き、作業の手が止まるという事があり、馴れていないことによる無駄な時間ロスを発生させてしまった。ちょうどロープを捌いている際に風が出てきて少し寒くなってきた。登りはじめで雨具を着ていなかったら風に叩かれて体力を奪われる状況だっただろう。

 3ピッチ目の続きをNさんが難なくリードしてAさんが2番手、3番手で自分が登るが簡単な個所についてロープがたるんだまま登ってしまった。本来笛で合図してテンションをもらうべきなのに、これも頭から抜けてしまっていた。このピッチはNさんにリードが変わった直後のリッジから右のフェースに移る箇所が核心だと思われる。散々なミスを続けながらなんとかAフェースの頭に到着する。本来登る予定だったCフェースや特徴的なX峰の頭が良く見えるのと共に八峰のZ、[峰も見えるのと共に源次郎尾根もよく見える。晴天なら更に素晴らしい眺望が臨めただろう。

 懸垂下降用の支点まで下る際にロープはまとめているので、万が一にも足は滑らせることは出来ないと思いつつ下り、ハイマツの中にある丈夫そうな枝に懸垂下降用にスリングが何重にも巻いてあり支点となっていた。これまでボルトでしか懸垂下降したことが無いので自然の中での支点がこのように作られるのかと勉強になる。また、支点が自分の立っている位置よりも下にあるため、ロープをセットしても効いているかが分かりづらいが、セルフを取った状態で支点より下に降りるとロープの効きが確認できた。(ここは支点の下に足場となる枝があるので容易に降りれる)この点についてNさんに確認すると鷹取山でも練習する箇所があるという事なので、どこかで練習する機会を作りたい。また、最初にNさんが降りたタイミングでロープの結び目が下に行って途中の枝に引っかかってしまったので、これは支点の下に降りてロープを上下でなく、横に引っ張ることでロープを枝から外して、Aさん、自分の順で降りました。懸垂下降は今年に入った段階ではスムーズに降りれずに課題でしたが、これまでの練習のおかげでスムーズ降りれて、今回の登攀で唯一、自分で満足できた箇所でした。

 X、Yのコルでは八峰縦走路をNさんから説明頂いた後に劔沢へ向けて下るが、コルから雪渓までは浮石が多く、一歩ずつ鉛直方向へ荷重して足元を崩さないように歩き、雪渓にたどり着くが、ここから通り雨で一瞬強い雨が降り、その後も時折、弱い雨が降り続ける。長次郎谷を下るとT、Uのコル下に長次郎谷の真ん中に岩がある箇所では、行きよりも明らかに融雪が進んで岩が出ている箇所が増えており、ここを下った先の長次郎谷出合付近でも左側より斜面より崩れた土が流れ込んでいる。山の状況は1日あれば大きく変わってしまうのだなと感じました。劔沢の登り返しは大変でしたが何とか日が出てるうちにテントへ戻りましたが、強風の為か、何方かがテントを潰してくれていました。前日の夜にテントの引綱が外れて直していたので、出発前に潰すことを提案すべきだったのかと後悔。この日で長次郎谷、Y峰登攀とやるべきことをやって一安心して眠りにつきました。

C5日目(劔沢キャンプ場から室堂)
最終日、この日も剱岳山頂は雲が掛かって今回の山行では一度も山頂が晴れていることはなかった。疲れが残る中で別山乗越まで登るが、雷鳥沢から登るよりも標高差が小さいので楽に登れた。逆に雷鳥沢への下りは長く単調で雷鳥沢の目の前でNさんが転んで怪我をされたので先頭を歩いていた自分が途中で少しだけ休んでおけばミスは起こさなかったのかもしれない。雷鳥沢で休憩後、みくりが池温泉にて5日ぶりのお風呂に入って生き返る。後は室堂まで歩いて無事に下山となりました。  今回、色々と自分の技術不足を感じるとこがあるので、練習や本チャンの経験をもっと増やして、次回に剱岳に来た時、より積極的に動けるようになりたい。


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