秋田駒ケ岳の記録

日程:2019年2月23日

<行程>
5:30 ロッヂ・ヨーデル出発(車で移動)→6:15 アルパこまくさから山行開始→7:30 旧田沢湖高原アッスルスキー場ゲレンデトップ→ 9:20 八合目小屋到着(休憩)→10:15 八合目小屋出発→11:30 阿弥陀小屋付近到着→12:00 秋田駒ケ岳(男女岳・おなめだけ)山頂到着→ 山頂?阿弥陀小屋付近?八合目小屋までスキー滑走→13:50 八合目小屋 八合目小屋?林道?旧スキー場?再び林道をスキーで滑走→ 14:40 林道終着点へ到着、たざわ湖スキー場へ移動→15:20 たざわ湖スキー場 レストハウス「レラ」到着

<行動記録>
秋田駒ケ岳の麓、水沢温泉郷にあるロッヂ・ヨーデルの温泉は気象条件や秋田駒ケ岳の火山活動によって、熱い風呂が苦手な人は水で薄めないと入れないぐらいまで熱くなることがあるが、ここ数日はゆったり浸かれる温度で実に快適だ。2月23日、午前4時に布団から這い出て、心身ともに目を覚ます意味で温泉に浸かりながら当日のルートを思い浮かべる。

2月20日の夜、先行してKTAROとTAKAMで横浜を出発し、2月21日の早朝からKTAROが下見をした際には、標高1,200mより上は終始ホワイトアウトながらも様々な情報を得られた。

まず雪質。2月20日、全国的にこの季節としては異常なほど温暖な気候となった影響で終日降り続いた雨と、夜半から5cmほど積もった雪の影響で、アイスバーン、新雪、クラスト、吹き溜まり、ザラメ雪が混在する、非常に複雑な状況だった。

ルートについては、たざわ湖スキー場からの直登ルートは急な雪面、痩せ尾根、一部岩稜帯が出てくる。雪面状況が安定してアイゼンが効く状況なら最短ルートとして使えるが、複雑な雪面状況もあるので大勢のパーティでは難しいと判断。次に旧田沢湖高原アッスルスキー場ゲレンデトップから男女岳山頂にストレートに向かうルートは前半が小さな谷をいくつか含む樹林帯、その後は北西風が吹き付ける西側斜面で雪質不安定。スキー技術、スキー歩行技術のレベルに開きがある今回はここも回避。

急激に天候が悪化しても確実に下山ができる林道ルートで八合目まで上がることを選択した。なお、2月21日にたざわ湖スキー場主催のツアー企画テストということで、八合目までの林道がピステンで踏み固められていた点も見逃せなかった。たまたまではあるが、これで八合目小屋までの林道ルートはかなり楽に行き来できる。

最後に天候。秋田駒ケ岳の厳冬期は、日本海に加えて田沢湖で湿り気を帯びた空気が秋田駒ケ岳を含めた奥羽山脈にぶつかることで断熱膨張を起こす。厳冬期の気温であれば、標高1,200m付近で露点に達して凝結。結果として太陽が昇り、風が吹き出す午前9時前後から標高1,200m以上は雲に包まれることが多い。
下見に出かけた2月21日は、前日に日本列島を通過した低気圧の影響もあってゆるい冬型。高層天気図も1,440m付近で-5.7℃、西の風15m/s。間違いなくガスが発生する状況だった。それから2日でゆっくり高気圧が張り出し、天候は回復傾向。良い状況が見込まれたが、変わりやす状況でもある。下見の際に、ホワイトアウトシミュレーションもしたので不安はなかったが、せっかく秋田まで出かけてきて、ホワイトアウトシミュレーションの練習ばかりでもつまらない。好天を祈る。
温泉から出て、外に出る。気温は-7℃程度。日の出前だがうっすら秋田駒ケ岳の稜線が確認できた。よし、まずは今の時点でガスが発生していないことが確認できた。

それぞれ身支度を整えて、5:00に朝食。ロッヂ・ヨーデルをきりもりする元祖山ガール(?)のユキ子氏が自家製の米で作ったおにぎり、山行を意識して甘めに作った卵焼きと、蜜をたっぷり含んだ秋田県産のリンゴをおいしくいただく。しっかり朝食が取れたので、その後の腹持ちも良い。行動食として用意してもらったおにぎり二つと、自家製の”いぶりがっこ”をザックに詰めて、5:30にロッヂ・ヨーデルを出発。本日のスタート地点であるアルパこまくさまで送迎してもらう。

アルパこまくさに着くと空あ明るくなり、秋田駒ケ岳の稜線がはっきり見える。その山容に見惚れる反面、内心は“どうかこのまま好天が続きますように”と願うばかり。ビーコンチェックをして、今日の行程を全員で再確認。スキーをつけて6:15に歩き出した。オーダーはKTAROがトップで、しんがりをMHに務めてもらった。トップとしんがりがKOSから借りた無線機を所持しているため、視界が悪くなった時の連絡手段を見越したオーダーだ。ここからしばらくの間は旧スキー場のゲレンデ内を歩く。

2006年に閉鎖された旧田沢湖高原アッスルスキー場は高度成長期に大手建設会社の一つの事業として運営を開始していたがバブル崩壊を期に業績は悪化、地元温泉組合が買い取る形で経営を続けたが、継続は難しかった。閉鎖から10年以上が経過しており、ブッシュも目に付くが、冬季の秋田駒ケ岳へのアプローチとして、BCスキーの練習場所として活用されていた。

そして、KTAROにとっては父親の経営するスキースクールがあったスキー場であり、何万回と滑ったホームゲレンデでもある。昨年まではアルパこまくさから200mほど上がった平坦な場所にスキースクールの事務所建物が残っていたが、減価償却を終えたのか、それも取り壊されてしまっていた。少しだけ感傷的になる場所でもある。
もとい、ゲレンデトップまではゆっくり登っても1時間半。開始20分地点で温度調整の休憩を5分とって、一気にゲレンデトップまで上がる。ピステンが入ったあとなので、年末にKTAROがスキーを履いても膝ラッセルで上がったときとは大違い。

ゲレンデ中腹で、帰りに林道へ抜ける箇所を確認してゲレンデ上部へ。コース幅30?40m、このコースは当時「霧氷コース」と名付けられ、その名の通り左右に広がる落葉後の広葉樹に見事な霧氷がつく。が、この日は一昨日の雨で霧氷が落ちてしまっていた。霧氷が見えるのはもう少し先になりそうだ。
7:30ゲレンデトップ到着。10分間の休憩を取る。八合目小屋手前までは西斜面を登るためまだ日は差していないが、山頂には陽が差し込んでいるのが見える。標高は1630m程度ながら、緯度の高さと日本海側気候の影響で森林限界が1,200m付近である秋田駒ケ岳は、優雅な雪稜を見せてくれる。前々日はホワイトアウト。前日にメンバー全員でゲレンデスキーを楽しんでいたときも1,200m付近から上部は雲に包まれていた。それが今日は雲ひとつない。行動日に合わせて最高の天気となってくれた。

10分休憩をとって、ゲレンデトップから林道に出る。ここから八合目までは林道を上がる。この林道にはカーブミラーに番号が付けられていて、林道に入って最初のカーブミラーの番号が”28”、八合目までカウントダウン方式でカーブミラーが続いているので、ひとつの目安になる。
その後、標高1,100m付近で林道は大きめの沢を渡る。山頂に向かって林道の左を流れていた沢がここでクロスして右側に変わる。この沢に降りてしまうと、雪深い中稜線上に出ることは難しい、上部で降りてしまったらこのクロスポイントで上がれるが、これより下で沢におりてしまうと厄介だ。林道を外れてツリーランをする場合、この沢が目印になる。

この沢を超えると、林道はつづら折りに変わってくる。標高も1,150m にさしかかると、いよいよ霧氷が姿を現してきた。つづら折れのカーブをショートカットして、前々日に降った5cm程度の新雪の上を歩く。ちょっとした段差などを越えながら歩き、スキー歩行の練習。

(秋田駒ケ岳は標高1,200m付近で森林限界を迎える。北方に1,000km平行移動すると森林限界が1,000m上がるというのが理論上の数値だが、南八ヶ岳の森林限界が2,600m付近であることから考えると、1,200mというのはかなり低い。やはり日本海側気候の影響なのだと考えられる)

森林限界を超えると、八合目を示す標識が見え、小屋の三角屋根も見え隠れする。何名かはすでに小屋を待ち望んでいる顔つきだ。

9:20八合目小屋到着。これまでは林道歩きなので、本格的に登るのはこれからだが、大半が初めてのルートでもあるためやや疲労も見える。小屋に入ってゆっくり休憩をとることにした。

八合目小屋はキレイに整備されており快適。2階から入ると2階スペースには布団も置かれており、緊急避難があっても十分寝泊まりができる(もっともここまで来てしまえば林道を下れるので、日が暮れていても下山するという選択肢も十分考えられる)。

ここで、今回が今シーズン初スキーとなってしまったTSUMは足がブーツになじまず下山を選択。スキー技術にやや不安のあるTAKAMも、八合目まで来ただけでも十分な成果であり下山を選択。加えて、行動を共にしていた日本ゴア社マーケティング担当のICHI氏も、ここまででメンバーの纏うゴア製品が正しく機能していることを確認して(?)下山を選択。林道から旧スキー場を降り、それぞれ温泉、同日たざわ湖スキー場で開催されていたモーグルW杯の観戦、反省会などに時間を向けた。
休憩をしながら小屋から上部を見上げ、ここから先はスキーを担いでワカンで登ることに決めた。下見段階では、ここから先の雪質は頻繁に変わる。加えて阿弥陀小屋手前には、急な斜面が現れるため、スキー歩行技術に長けていないと不安が残るためだ。行けるところまでスキーでいくという選択もあったが、難しい場面でスキーから履き替えることも危ない。ここは確実性をとった。

10:15 八合目小屋を出発。積雪量は十分で細かな凹凸やブッシュは完全に雪に埋まっている。それでも例年であれば完全に姿を消してしまう看板が見えていることから、例年に比べると少ないことが伺える。 八合目から、しばらくはゆるい稜線を登る。先行パーティーのスキーやスノーシューのトレースを見る限りでは、新雪は深くない。ゆったりとしたベースながら快適に登っていたが稜線がはっきりしてきたころから、雪質に変化が見られ、クラスト状態からの踏み抜きが出てきた。このあたりはハイマツ帯になっており、積雪量がさほど多くないところに昨日の一昨日の雨で緩んだ雪と今朝の冷え込みで再凍結した表面という状態だ。何度か腿まで落ちる場面もありながらも、稜線をたどって登る。

明確な稜線に出ると風が吹き出した。稜線の西側には男女岳北西面のカールが広がっているが、風を避けて稜線のやや東側を通過する。標高1,500mの小さなピークに立つと、ルートから見て正面、南側の雪原越しに阿弥陀小屋が2棟並んで見えている。避難小屋として使える小屋だが、雪に覆われており入り口を掘り出すのは一苦労だ。西側には目指すピークである男女岳が見え、先行者1名滑走したシュプールと、2名パーティーが登っていく姿が見えている。

時刻は11:30。ここから先は多少の雪質変化はあったとしても、凹凸の少ない滑らかな斜面が続く。急斜面をトラバースしながら登る場面もあるが、スキーに履き替えて全員で男女岳山頂を目指す。
男女岳までは平坦な雪原(夏場は湿原になっている箇所)を通過して東側斜面を登る。斜度がゆるい南側を登りたいところだが、風が吹き付ける南側は凹凸があってスキー歩行が難しくなる。急斜面と凹凸を極力避けながら、下部は夏道に沿った直登ルートを、上部は大きく北側に回り込むトラバースルートで山頂を目指した。

男女岳山頂直前で11:50。この時間帯になって、少し雲が出てくる場面があった。やはりホワイトアウトが一番怖い。スキーを履いて降りるにはとっさに対応ができる技術が求められ、ツボ足となると通常の倍程度体力を消費する。ピークに近づくにつれ、空を見上げる頻度が上がる。予報は晴れ、天気図も悪くない。それでも秋田駒ケ岳の冬は、湖が近いという地形もあって一瞬で変わる可能性がある。絶えず葛藤が続くが、今の時点で引き返すほどではないと判断。途中、スキー歩行でのトラバースに苦労していたものもストックで保持しながらなんとか上がってきた。キックターンを避けて、やや平坦なところでヘアピンカーブのような折り返しをすること2回。最後のヘアピンカーブを抜ければ、もう山頂は目の前だ。

12:00全員無事に登頂!
登ってきた東側のルートから山頂に出ると身体がフラつく程度の風速。感覚値では15m/s程度だろうか。それでもやはり山頂は心が踊る。記念撮影をしたり、周囲を眺めたり。一通り山頂気分を満喫して滑降の準備に入る。

12:15男女岳東面滑走。ルートは阿弥陀小屋北側に広がる雪原(夏は湿原)に向かうルート。西側から旧アッスルスキー場に向かうルートもあるが、雪質が不安定なため今回は回避。北側はカールに向かって極端な急斜面、南側は風の通り道で凹凸が激しい。

KTAROが最初に滑走して、しんがりのMHに状況をフィードバックするものとして滑走開始。先行者の滑りも見ていて雪面が安定している様子だったので、雪原に直線的に降りるルートを選択。この時期の秋田駒ケ岳にしてはやや雪は重め。それでも東側は雪質が安定していて滑りやすい。斜面中間付近で35度程度の急斜面となるが、雪質が良いので快適にターンを刻む。振り返ると、ショートターンで刻んだシュプールが美しい(自画自賛)。

雪原に到着して無線をあげる「最高でーす! 雪面状況問題なし。安定しています。こちらに直線的に降りてくるルートで来てください」

準備万端、1人ずつ滑走を開始する。ところがルートは徐々に南側にずれてしまう。ピークから南東に向かうゆるい稜線は、東面ダイレクトルートに比べるとやや斜度が緩い。東側は上から見ると落ち込んでいて、自分の向かう先が見えなくなるほどだ。雪面状況は稜線に近づくほどアイスバーンやクラスト、吹き溜まりが出てきて滑りにくくなるため、ダイレクトルートが一番滑りやすく、転んでも安心なのだが仕方ない。それでも、急斜面を堪能したもの、逆に急斜面に面食らったもの、中間で転倒して立て直しに苦戦したもの、腰が引けそうになることと格闘しながらバランスをとって滑降するもの、各々が男女岳ピークからの広いキャンパスを楽しんだ。

晴れ渡った天候、まっ白に輝く秋田駒ケ岳、山頂までの道のり、急斜面を滑りきったことの満足感。その全てが素晴らしく、全員の表情が満足感に溢れていた。

全員が男女岳から滑り降りた時点で13:10。阿弥陀小屋まで上がって休憩と思ったが、風の条件を考慮して稜線に囲まれたこの雪原で休憩とした。次のルートを阿弥陀小屋南側、横岳方面と定めて準備をしていると、急にガスが濃くなってきた。一瞬のことかもしれないが、前言撤回で下山を選択。後ろ髪引かれる思いもあるが、ここは勇気ある決断として下山を決めた。

さて、下山ルート。八合目小屋からは林道に沿う形でツリーランと決めていた。ここから八合目小屋までのルートは二つ。@男女岳から八合目小屋に向かって広がるカールを滑る or Aそのカールを東側に迂回する沢を下る。@は山スキーをするものなら誰もが滑りたいような斜面だが、出だしがけっこうな急斜面となる。KTAROが@の様子を見に行き特に問題がありそうな雪面状況ではなかったが、やはり最初の急斜面を降るのが厳しく迂回を選択。沢に沿って八合目まで降りる。迂回とはいえ、最初はなかなかの急斜面だったりもするのだが。

八合目までの下山ルートは、上部に比べてやや重雪。それでも滑りにくいというほどの雪質ではない。沢に沿って降るため風もない。各々シュプールを刻みながら、それぞれの持てる技術を発揮して降る。空の様子を気にしたり、体重移動を意識しながら滑ったり、行けなかったルートに思いを馳せたり、途中で急斜面のトラバースに苦戦したり。

下山をしていると、いつの間にか空は再び晴れ渡っていた。さっきのガスを少し疎ましく思うところもあるが、ちょうど良い頃合いを知らせてくれたと思うことにする。そして再び八合目の小屋が見えると、ずいぶん気持ちが楽になってくる。あとは快適なツリーランをしてたざわ湖スキー場方面へ林道沿いに降るだけだ。

13:50。今からもう一度登れるのではないかと思うほど、綺麗な青空と雪山のコントラストを背に、八合目小屋から降り始める。秋田駒ケ岳を堪能し、この余韻で美味しいお酒が飲めそうだ。たざわ湖スキー場経由でロッヂ・ヨーデルに帰着すると、ついさっきまで自分たちがいた光景を思い浮かべながら早速反省会が始まった。そして、来年もまた来ることが決まったのだった。

今回は金曜?日曜の2泊3日で、中日である土曜に入山した。初日と最終日は田沢湖スキー場でゲレンデスキー。ともに天気は悪くなかったが、山頂まで晴れ渡っていたのは中日だけ。よくぞこうも自分たちのスケジールを受け入れたものだ。すでに来年への期待が膨らんでいる。

記録 KTARO


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