8月会山行 北アルプス 剱岳チンネ左稜線(三ノ窓まで)の記録

日程 2014年8月8日(金)〜13日(水)

◆はじめに
台風11号は偏西風の位置と太平洋高気圧の弱まりのため動きが遅く、合宿期間の天候予想は難しい状況だった。しかし、いろいろと情報収集を行い、11日午後から12日が天候回復するお盆期間の唯一チャンスになると判断し、決行することとした。

◆8月8日(金)
12:00横浜⇒安房トンネル経由⇒21:30立山駅駐車場 昼にNさんを自宅でピックアップ。国道16号から高尾ICで高速に乗り、松本ICから安房トンネルを抜けて神通川沿いを下り立山駅に21:30頃到着。台風接近が確実なため駅前の駐車場は空きが多く、トイレの近くで落木を避けた場所を選んで駐車した。雨も強いので、テントでの仮眠はやめて車の中で寝ることにする。

◆8月9日(土)
5:00起床6:00⇒6:20ケーブル&バス⇒7:40室堂8:10→8:50雷鳥平9:02→10:37別山乗越11:00→11:55剱沢小屋前→14:00真砂沢ロッジCS
起きても雨。準備をして始発2本目の6:20発のケーブルに乗る。空いていて荷物を持ったまま乗車させてもらえた。室堂バスターミナルも空いている。屋上へのドアは雨風を防ぐため閉めてあった。 雨具にザックカバーと完全防備で8:10に出発。天気の割に視界は効く。雨を除けば空いている室堂で気持ち良い。 雷鳥平CSも閑散としており、雷鳥坂の登りに入ると人は居ない。休憩1回で登り切り、ずぶ濡れになり寒いので剱御前小屋でカップラーメンを食べて生き返る。
剱沢の山岳警備隊派出所に寄って登山計画書を提出し、雪渓の状況など情報を入手して先に進む。 雨は降り続いているが、視界は利くのでありがたい。剱沢雪渓上部は夏道を下った。派出所で聞いた通りで滝の所は穴が開いていた。南無の滝の雪渓も上からは繋がって見えたが下から見たら細くなっていた(帰りは完全に切れていた) 雨の割には良いペースで真砂沢CSに到着することができた。テントは他に1張りあるだけだった。
◆8月10日(日)
真砂沢ロッジ宿泊<終日停滞>
5:30頃起床する。ラジオの天気予報によると、台風は四国に上陸し接近してきており、富山も午後から風雨が強まるとのことで、6:30過ぎにロッジのスタッフの方に宿泊を申し入れる。午後3時に入れるという事で、雨の中終日テントでの停滞を覚悟してうだうだとする。しばらくしたらロッジのご主人から「午後から荒れるので、今のうちにテントを撤収して乾燥室に移り、濡れたものを乾かして、風呂が沸いたら汗を流して、部屋へ入って下さい」と乾燥室への移動を勧められた。今日の予約は全部キャンセルになり今のところ我々しか居ないので、自由に使って良いとのこと。大変ありがたい。荷物の細部まで湿気が入り込んでしまったため装備をすべて出して干す。昼前には小屋の中で自炊すれば良いとのことで風呂で汗を流して早々に部屋に入れていただけた。
部屋に移動して早々に停滞モードに入りたいところだったが、アルコールが入る前に明日の準備をしようという事で乾かすために広げきった装備を仕分けていたら時間が過ぎてしまった。ご主人の好意で自炊の場所を用意していただいていたのに大変失礼をしてしまった。忠告を受けて直ぐに居間に移動したが、昼食は行動食で調理する物も無いのでビールとつまみで昼?とする。ご主人のマッキンリーのテレビビデオを見たり、昨年6峰A.Cフェースに来たのをご主人が覚えていて、山やスキーや会の話で盛り上がった。途中単独行の男性も合流し益々盛り上がった所で、夕食を自炊して20:30に部屋に入って就寝した。
ロッジのご主人とスタッフの方には大変お世話になりました。この場を借りて御礼申し上げます。

◆8月11日(月)
4:30起床6:42→7:30長次郎谷出合→9:10熊ノ岩下→11:30池ノ谷乗越11:50→12:30三ノ窓
雨は降っているが、台風は日本海へ抜けて行ったので三ノ窓へ向けて出発することにする。テントや登攀に不要な装備は乾燥室にデポさせて頂けた。出発間際に虹も見えて天候回復の期待が膨らむ。
しかし、長次郎谷に入って一瞬晴れたのを最後に降ったり止んだりの状態だった。雨で雪渓が溶けているためか、途中何個か雪渓上を転がり落ちる岩を目撃した。熊ノ岩を目指す3人パーティが居たが、他は誰にも会わなかった。
熊ノ岩を過ぎて長次郎谷右股に入るとガスが濃くなり、視界が非常に悪くなった。雪渓も切れている箇所があるため、慎重にルートを探して登る。薄手の手袋しか持っていない為手が冷たい。オーバー手袋を持ってくるべきだった。 ロープは出すことなく11:30に池ノ谷乗越に到着。アイゼンを外し池ノ谷ガリーを下る。 三ノ窓への入り口にピンクテープがあった。
三ノ窓に着いても天気が回復する雰囲気はまったくなく、チンネの取付方面もガスが濃くて見えない。水を確保するために雪渓からしずくがポタポタと垂れている所にコッフェルをセットして下見に出発したが、あまりに視界が悪いのでやめた。戻って岩小屋で雨宿りをする。時おり雨が強く降りツエルトを張るのが躊躇されたが、座っていると寒く、ここで暗くなるのも辛いので小降りになったのを見計らって設営することにした。酒も無いので食事をしてラジオを聞いて就寝。
◆8月12日(火)
4:30起床→7:00取付確認7:50→8:44池ノ谷乗越→11:20長次郎谷出合(荷物デポ)→真砂沢ロッジ12:34→長次郎谷出合(荷物回収)13:52→15:40剱沢小屋15:50→16:10剱沢
朝、ツエルトの中で明るさを感じられたが、朝日は雲にさえぎられ拝めなかった。チンネの頭方面はガスがかかっていたが、このまま回復すれば登攀出来そうだ。登攀に向けて装備を揃える。しかし、無常にも雨が降ってきた。富山側で繋がる携帯で確認した剱岳の天気予報は雨マークがついている。天候は大きくは回復傾向のはずだが、途中で引き返すのも難しいことから中止を決定する。
昨日はガスで全く見えなかった取付の逆4の字も良く見える。悔しいので取付まで行って記念写真を撮って三ノ窓を後にする。 池ノ谷ガリーのガレ場を1時間近く登り池ノ谷乗越へ到着。予定通りの時間で登り切れたので、Nさんが明日は室堂発12時過ぎの直行バスで帰るという事になり、今日中に剱沢CSまで登り返すことにした。
右俣を下り始めると八ツ峰6峰DフェースとCフェースを登攀しているパーティが見えた。雨は小康状態だったが、しばらくすると強く降ってきて、登攀中のパーティは雨にさらされていた。 長次郎谷の出合で雨に濡れないようにシュルントに登攀具をデポして、ほぼ空身で真砂沢ロッジに下った。天気はやっと回復してきて、ロッジに到着するとご主人が外で昼食を食べている所だった。顛末を報告し、また来ることを約束して、預かっていただいたテント等の装備を持って、下りてきた雪渓を登り返した。デポした荷物も詰め込むと、濡れた分なのか濡れて気持ちの悪い靴のせいなのか来た時より数キロ重く感じた。剱沢雪渓の高度を一歩ずつコツコツと稼ぐ。天候はいよいよ本格的に回復して、剱沢小屋に着いた時には青空の中に剱岳が映えていた。来るときはテントが10張もなかったキャンプサイトは夏の剱沢らしく混雑していた、時間は16時を過ぎていたが、湿った装備を全開にして久しぶりの陽のぬくもりを吸収させることができた。
◆8月13日(水)
6:00起床7:05→7:55別山乗越8:10→9:07雷鳥平CS 9:22→10:10室堂バスターミナル 11:15→12:30立山駅
2時頃から周辺がざわざわし、4時・5時になると騒がしい。悔しいことに最高の天気だ。ゆっくり起きて朝食を食べて7時過ぎに出発する。装備が若干乾いたからか、天気が良いからなのか足取りは軽い。雷鳥平のキャンプサイトもにぎわっていた。観光客が楽しそうに散策する中を沢登りの後の様な異臭を漂わせ10時過ぎに室堂に到着した。Nさんの帰りのバスも無事予約できたので、ここで解散して一人立山駅へ下り金沢への帰省の途についた。
<山行雑感> チンネ左稜線の登攀は叶わなかったが、天候の悪い中で通常通りに行動出来たことは良い経験となった。チンネの核心はアプローチと言う話もあるが、確かに室堂・真砂沢ロッジの往復・長次郎谷右俣の登下降・ガレ場の登下降などを無理なくこなせる体力・技術・土地勘が必要だと感じた。(KN 記)

<Nの補足>
気象状況とどう取り組むかが今回の山行の核心だった。  当初の計画は8/8夜〜8/12の夜行3泊4日の予定だった。入下山2日、登山行動2日(予備日1日含む)。登山行動は、10日に真砂沢から三ノ窓に行ってチンネ登攀、その後時間的に真砂沢まで戻れなければ三ノ窓にビバーク、もしくは天候等の状況で三ノ窓でビバーク後翌日11日にチンネ登攀をしてベースの真砂沢に戻る。その際、時間的に余裕があれば、八ツ峰Y峰のCかAフェースを登攀して帰幕する。というものだった。  しかし、出発前の天気予報では、台風11号が8月10日に北陸に接近しそうであった。したがって、チャンスがあるとすれば登山行動日は11日、12日になるので、下山日が13日となる。当初の予定から日程を後ろに1日延ばした。ただし、10日は台風の影響が考えられるので、出発は8日にして9日のうちに入山して10日停滞する計画、都合夜行4泊5日の計画に変更した。  実際には、以下のようなことだった。  9日入山日は雨。しかし雨脚、風ともそれほど強くはなかった。  10日は、午後北陸に台風が接近。真砂沢ロッジのご主人の話では、真砂沢は風の影響は強いとのことで、真砂沢ロッジに素泊まりで停滞。夜半雨風強し。10日夜のテレビの天気予報では、11日は昼から回復し12日は晴れとの予報だった。ロッジのご主人も交えて12日がワンチャンスだねという話になった。  11日、雨は降っているが、風は強くない。朝のテレビの天気予報では、台風が日本海に抜け、夜には晴れるとのことだった。外では、一瞬だが北東の空に青空が覗いた。12日登攀のワンチャンスを狙って出発する。  三ノ窓までの行動中は、しとしと雨。長次郎谷では、八ツ峰の各ピークの間のルンゼからは強い風が吹き下し時おり耐風姿勢を取りながら進んだ。台風の影響だろう、いつもより多い転石に、雪渓上の音のしない落石に注意した。熊ノ岩近くの八ツ峰側には小川ができていた。池ノ谷乗越手前では、乗越から吹き下ろしてくる風で少し寒くなり、防寒着を雨具の下に着た。  昼過ぎに着いた三ノ窓は、池ノ谷側は吹き上げる風が強かったが、三ノ窓側は風はそれほどではなかった。三ノ窓側にツエルトを張る場所を決める。富山市内側が見える場所で携帯の電波が繋がり、剱岳の天気予報を見ると、今日の夜は晴れ、明日の午前午後は晴れの予報だった。午後は、強まったり弱まったりしながら雨は降り続いた。その間、3人ほどが横になれる岩小屋は奥の方が少し天井が高くなっているので、座って雨宿りした。午後3時、雨もいったん弱まり、寒くもなったのでツエルトを張って移った。  夕方から晴れるとの予報だったが、夕方になっても雨は降り続いた。ラジオの明日の天気予報は、晴れ所により雨とのこと。弱気と一縷の望みが混じった状態で睡眠タイム。  12日、私は夜中にトイレに行くことは、まったくと言っていいほどなかったのに、4度も行ってしまった。汗と湿気で湿った衣類がベターっと肌に張り付いて、体が温まらない。カイロを貼っても湿気のせいかあまり温かくない。寝袋のパッキング時の防水対策が不完全で多少濡れていたせいもあるかもしれない。4度目のトイレのとき、少し空気が乾いていて、岩を触るとまだ濡れてはいるものの晴れれば乾きそうな印象だった。可能性が出てきたと感じた。登攀モードで4時半起床。東の空も一瞬だが赤く染まった。  しかし、携帯で剱岳の予報を見ると、午前中は雨マーク、ラジオの予報では所により雨。じきに雨が降り出した。わがパーティの力量を考えて、登攀断念となった。  今回は、天気が予報より悪い方へ悪い方へと実現した。しかしこれも山の一つの顔、それなりに楽しむことができた。 その他今回経験したことのいくつか。  池ノ谷乗越に上がる長次郎谷右俣は、ガスで見通しが利かなかった。私は過去2回下っているが、登ったことはなかった。池ノ谷乗越は八ツ峰ノ頭の脇なので、八ツ峰側壁から離れないように登った。長次郎谷右俣は、島状のガレ場を挟んで、本流は左方向に曲がっていく。池ノ谷乗越へはガレ場の右を登って行く。長次郎谷右俣のクラックが走っていて雪渓通しに通過できないところは、八ツ峰の側壁をへつれば問題ない。雪渓と側壁の行き来は、どこかしら容易なところがあった。  池ノ谷ガリーは、ガスで先が見えにくく踏み跡を探りながら下った。主に左手の壁に沿って下ると下りやすかった。登りも同じルートを登ると登りやすかった。  ツエルトの設営は、四隅の固定は樹林帯などでは木切れなどを刺して固定できるが、三ノ窓は木切れなどないので、金属製のペグを持っていってそれで固定した。地面は濡れていたが、久野さんが銀マットを持って上がってくれ、それを敷いたので助かった。  チンネへの取付は、雪渓を横断して、一旦島状の土とガレの部分を下るように通過して、さらに雪渓を横断して着く。そのことをはっきり認識していなかったので、ガスで見通せないとき、取付がよく分からなかった。  室堂からの帰路だが、帰ることだけを考えると、バスの毎日あるぺん号は意外と楽だ。室堂から乗換なしで新宿まで帰れる。12時半室堂発で、今回は20時半ころ新宿に着いた。当日でも、毎日旅行社の予約センターに電話すれば、座席が空いていれば乗れる。ただし、電話は話し中で繋がりにくかった。また当日申し込みは、原則カードでの決済なのでクレジットカード番号と有効期限の情報があるとよい。
                                         

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