八ヶ岳横岳西壁 中山尾根

日程:2014年11月29日(土)〜30日(日)

我々の中山尾根登攀の概要:
 中山乗越から樹林帯を1時間ほど登って雪と岩のリッジを抜けると下部岩壁取付に出る。下部岩壁は2P。下部岩壁が終わると雪稜帯となり特に難しい所はなく快適な登りとなる。120mほど登ると上部岸壁の取付にでる。上部岩壁がこのルート全体の核心部。上部岩壁の上は、雪稜、岩稜、小ハングの岩場となる。小ハングを抜けた終了点から一般道にトラバースする。帰りは一般道で地蔵尾根を下って行者小屋へ向かう。

行動記録:
11月29日(土)天候:雨 15時から曇り
行程:5:15平沼橋出発〜5:30Nさん宅〜9:30美濃戸10:00〜13:00行者小屋14:00〜14:10中山乗越〜15:00下部岩壁〜16:00行者小屋

 Nさんの家を5時30分に出発し車を走らせていると高速道路で雨がひどくなってきた。美濃戸に着くころにはもう少し小雨になると思っていたが、雨脚はますますひどくなり、一向に弱まる気配はない。駐車場も車が5台ぐらいあるだけで今日の登山者は少ないようだ。身支度をして出発するころにはザーザー降りの雨で今日はやめようかと思う。携帯電話で天気予報をみてみると午前中はしっかりと雨の予報で午後からの行動にしようと思った。しかし、それだと取付まで下見に行く時間がないのでずぶ濡れ覚悟で行くことにする。Nさんが傘を差しているのをみて行者小屋までなら良いと思い傘を差して行者小屋まで歩くことにした。この傘のおかげでずぶ濡れにならず助かった。
 雨脚が強いので北沢経由で行くことにする。南沢経由より遠回りだが渡渉もないので北沢経由にして良かったと思った。途中赤岳鉱泉に寄り、テント場の受付をし、ビールなどの飲み物を買った。行者小屋に到着するとテントが一張りだけしかなく寂しい感じ。
 テントを設営し、傘を差して下部岩壁の取付まで下見に出る。中山乗越から一般道を外れ中山尾根をあがっていく。樹林帯の幅広い尾根なので踏み跡を探しながら登った。
樹林帯の上部は雪で覆われていたが左の稜線沿いにあがり、中山乗越から1時間ぐらいで下部岩壁手前の樹林帯が切れる場所に到着した。ガスがかかっていて下部岩壁1P目がよくわからない。一瞬ガスが晴れて下部岩壁をみたら大きな岩で、ここを本当に上るのかと思うくらいの岩だった。
 大きな岩場に圧倒されて明日は大丈夫であろうか?と心配しつつ、好天を祈り帰ることにする。帰りは明日に備えてNさんが目印をつけて効率良くいけるようにした。行者小屋に戻ってビールをのみ二人で誰がどこをリードするかきめた。私は下部岩壁1P目でNさんが2P目をリードすることにした。レトルトの中華丼を食べて就寝する。

11月30日(日)天候:晴れ 気温−5度
行程:6:00行者小屋〜6:10中山乗越〜7:10下部岩壁取付7:30〜10:30上部岩壁〜13:15終了点(一般道)〜地蔵尾根〜15:00行者小屋15:30〜17:30美濃戸駐車場〜温泉と食事19:45〜22:00Nさん宅〜22:20M自宅

 行者小屋からアイゼンを着けて歩き始める。中山乗越からは昨日の下見とNさんが付けた目印のおかげでスムースに取付に行くことができた。他のパーティーはいなくて我々だけだ。また天候も視界も良く気楽な気持ちにさせてくれた。
左↑1P目取付

 下部岩壁1P目は25m程度でMがリードする。3級程度のところだが身体の動きが最初ということもありアイゼンにうまく乗れてない感じがしたので慎重に登った。登っている最中に自分の今の実力からするとリードするなら3級程度がいいところかもしれないと思った。終了点はしっかりと支点が2個ありそこでビレーする。
↑1P目を登る

 2P目は左の草付ルートとビレー点真上の凹状ルートがある。我々は真上の凹状のルートを登った。Nさんがリードで2メートル登ったところで左足のアイゼンが外れかかった。一度おりてアイゼンを装着し直して再度チャレンジ。クラックにカムを入れて、プロテクションをとる。この部分は下から見るとそうでもなさそうだが、いざ登ってみると結構むずかしい。斜度はないが4級ぐらいだと思う。2Pの終了点は灌木で支点を取った。
↑下部岩壁2P目 Nさんリード クラックにカムを入れる。
 ここから先の雪稜帯はコンテで登っている記録が多いが、私はやったことがないし、他のパーティーもいないのでスタカットで登ることにする。難しい所はなく灌木がたくさんありプロテクションはところどころとれるので安心して登れる。そして天気も良く風もないので快適な登りだった。
↑雪稜帯 

 4Pで上部岩壁に到着。順番で行くと本日の核心部は、私がやったほうがロープをさばいたりしなくて済むので私がチャレンジすることにする。天候も良いし条件としては最高だったので頑張ってみたくなった。昨日までは完全にNさんにお願いするつもりだったが、いつまでもNさんにおんぶに抱っこではいけないという気持ちもあった。
 前情報だと凹角の最後の抜け口が核心部と聞いていた。ところが登って3〜4mのところで苦労し、セミのように岩場に張り付いてしまう。ガバのような手がかりはほとんどないので細かいホールドにアイゼンの前爪をたてて慎重に進んでいく。ピッケルのピックを岩の隙間にひっかけているが、落ちたら支えられるものではなかったのでかなり怖い思いをした。怖かったせいか腕の力を使いすぎてかなり疲れてしまった。
 少し休ませてもらって、最後の凹角の核心部を見上げた時、鷹取山の親不知第3ルートと同じだと感じ安心した。実際に登ってみるとやはりすごく似ていてここは楽しく登れた。トポによるとグレードは4級プラスとのこと。このピッチを終えた瞬間、まだまだトレーニング不足だと実感させられた。終了点は凹角を抜けたところにしっかりとした支点がありそこでビレーをした。
↑上部岩壁 凹角を抜けたところ 上から撮影。

上部岩壁の上もスタカットで登った。1P目はNさんがリード。雪稜を登り灌木でビレー。
↑上部岩壁の上1P目 Nさんリード

 2P目、Mがリード。難しい所はなく3級以下レベル。そのまま登ろうと思ったが、小ハング基部のアンカーボルト2個の所で切る。
3P目、Mリード、出だしの所が少し難しかったがそれでも3級には満たないレベル。しかし腕が疲れていたので超簡単ではなかった。ビレー点は、斜めに突き出たピナクル状の岩の側面にアンカーボルトが2個あり。
↑上部岸壁3P目 ビレー点より撮影。

 4P目は一般登山道までのトラバース。ロープはなくても良いが念のためロープで確保していく。ビレー点はアンカーボルトがないので小さい岩にスリングをまいてビレー点とした。

 13:15頃完了し、Nさんとがっちりと握手をして喜ぶ。30分程度休んで一般道を下って行者小屋へ無事到着。天気がよく気温が高かったので喉も良く乾いたが、条件としては最高だった。終わってみて思ったことは、アイゼンの前爪にしっかりと乗ることが大事。手がかりは手袋をやっているし、つかめるところも少ないのでやはり前爪にのって足で登ることが基本だと感じた。冬バリエーションをやるときには事前に鷹取山の訓練がMUSTだと実感。そして今度は核心部を安心して登れるようになりたいです。

記録 M

いくつかの補足( N )
【下部岩壁取付手前の樹林帯】
 中山乗越の道標から右寄りに行くと踏み跡があった。しばらくその踏み跡をたどり、傾斜が急になり始めるあたりから左の稜線に向かった。その稜線は比較的傾斜が緩く、ギアの準備をするのに適している感じだった。ギアを装着して、稜線の少し右の雪面を10mくらい登ると、下部岩壁につながる雪のリッジ〜岩のリッジの手前に出る。

【下部岩壁1P目】
 下部岩壁1P目の登り始めは3つのルートがありそうだった。@岩壁基部をほんの少し右手に下ってから凹角に上がり左上するオーソドックスなルート、A正面の2〜3mの垂壁を直上するルート、B垂壁より若干傾斜が緩そうな垂壁の手前(左手)のルート。こちらのルートにはハンガーボルトやハーケンが打ってあった。我々はオーソドックスな凹角ルートを登ったが、足元の雪が少ないためか、以前登った時に比べ凹角に上がる1歩目が少しいやらしく感じた。

【下部岩壁2ピッチ目】
 下部岩壁2ピッチ目は、前回は左の草付を登ったが、今回はビレー点の頭上の凹状フェースを登った。最初の部分は残置のハーケン等はない。ほんの少し登るとお誂え向きの縦クラックにカムをセットできる。キャメロット#1がきまった。その少し上の棚状に上がると左手にハーケンがあった。左の岩の側面にアイゼンの前爪がかかる穴があって、そこに左足を乗せると楽に登れた。10mあるかないかくらいの岩の部分が終わるとその上は草付の段々になっていた。登り切った所にスリングがかかった枯れた木があったが、少し先に生きた木があったので、それをビレーアンカーとした。

【下部岩壁の上】
 下部岩壁2ピッチ目を終了すると、すぐ上に三角形の垂壁のちょっとした岩があり、その岩の上の2本の木にスリングが下がっていたが、そちらには行かず、そのすぐ下の岩の所に生えた立木にプロテクションを取って、雪面を左へトラバースして垂壁の左脇を抜けた。

【上部岩壁の下部】
 上部岩壁の取付ビレー点は、雪稜を登ってぶつかった岩場の少し右手の垂壁の基部にあった。
 取付いたのは、そのすぐ右のクラックから。Mさんは、そのクラックを数m登って右の壁が少しかぶってきて狭くなるところで、そこを乗越すのに苦労した。なお、その辺りには残置ハーケンが2本あった。
 私はそのクラックが行き詰り気味になる少し手前で左の垂壁に移った。アイゼンの前爪がかかるフットホールドが適当にある。雪や氷が乗っているので、ピッケルで落としながら登った。壁自体は立っていてフットホールドも若干細かいが、前爪がしっかりかかるので楽に登ることができた。

【上部岩壁の抜け口】
 下部の岩を登るとテラスになる。その上の凹角を登った。岩がデコボコして若干脆そうにも見える。その凹角は高さ3〜4mくらいだろうか。立っているがハーケンは豊富にあった。手足を壁に突っ張りながら重心移動する凹角登りで抜けられる。Mさんが言うように、鷹取山の親不知第3ルートの抜け口に似ている。親不知ルートの方が少し長いし、凹角下が少し難しいので、親不知でアイゼン・手袋をつけて練習すれば良いトレーニングになるだろう。少しグレードが上がるがザックを背負えばもっと良いかもしれない。

【上部岩壁の上】
 上部岩壁を抜けると、目の前に岩があり、ハーケンが1本見えた。しかしそちらへは行かず、傾斜が緩そうな左手へ行くと、緩傾斜の雪稜だった。この稜線はハイマツ帯のようだった。
 少し雪稜を登ると、スリングが巻いてある小太い寝た木があった。その先に岩場が見えた。小ハングの下にビレー点があるはずだが、小ハングがどれだか今一つはっきりしなかったので、その木でピッチを切った。登ってみて分かったが、その位置から見える二つの岩場のうち、上の方が小ハングだった。

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