積雪期の谷川岳東尾根

日程 2015年3月14日昼発〜3月15日

【行程】
 3月14日(土)
  横浜13:00発=自動車(KN車)=16:10水上=18:20谷川岳ロープウエイ駐車場  (仮眠)
 3月15日(日)
  2:00起床→3:15谷川岳ロープウエイ駐車場発→4:45一ノ倉沢出合5:00→6:50シンセンのコル(休憩、順番待ち)7:05→7:25第2岩峰7:35→8:05露岩帯→8:50観倉台→9:05第1岩峰基部(休憩、順番待ち)→9:40第1岩峰10:05→10:40国境稜線(休憩)→11:00トマノ耳11:15→12:20天神平12:30=ロープウエイ=駐車場13:00=自動車=18:30横浜

【行動記録】
3月14日(土)曇り
当初の予定では、金曜夜発・土曜登攀・日曜予備日の日程も考えていた。しかし、土曜よりも日曜の方が気象予報では移動性高気圧にかかりそうだし、金曜夜発土曜登攀だとほとんど寝ないで登攀することになるので、土曜昼発で睡眠時間を取り日曜に登攀することにした。
午後1時に横浜を発ち、4時過ぎには水上に着いた。ごくわずかに雪がちらついていた。レストランで早めの夕食を摂り打ち合わせを行った。と、そこへ東芝山岳会のYさんら3人が入ってきた。聞くとやはり明日東尾根に入るとのことで、エールを交換した。
近くのコンビニで翌日の朝食と寝酒等を購入してから、車で谷川岳登山指導センターに寄って登山届を提出し、ついでに積雪状況、ワカンが必要かどうか雪の状態を見てからロープウエイ駐車場に入った。新雪は5p程度だったので、最終的に決行を決める。仮眠用のテントを張ってそうこうしていると、一ノ沢二ノ沢中間稜を登攀したというパーティが戻ってきたので雪の状態を聞くと、ワカンは持っていったが使わなかったとのことだった。東尾根上に出てからの雪はスネ位だったがトレースが期待できるだろうとの話だった。予報では明日の降雪の可能性はまずないのでワカンは必要ないだろうと判断して持っていかないことにした。寝酒を飲んで8時前には就寝した。

3月15日(日)曇り/ガス/晴れ
2時起床。朝食やトイレ、ハーネスなど身支度をしてテントをたたみ3時15分ヘッ電を点けて駐車場を出発する。やはりもう春。寒くない。
谷川岳登山指導センターまでの車道はアスファルトが出ているが、その先はうず高い雪。その雪をまっすぐ登っていく踏み跡があったが、我々は左に上がり少し登って西黒尾根への踏み跡と別れて一ノ倉沢方向に進む踏み跡をたどった。時たま、アスファルトの林道が出ていたが、大半は雪の下だった。 先行するパーティのヘッ電の灯りが見える。途中一ノ沢左稜をやるという若い2人パーティに追い抜かれた。1時間半かかって4時45分に一ノ倉沢出合に着いた。
一ノ倉沢出合には数パーティが準備をしていた。生理現象を処理するのに多少時間を費やし、5時一ノ倉沢に入る。月が出ていてうすぼんやりと山影が浮かぶ。デブリもなさそう。雪も締まっている。 20分ほど歩くと左に大きな沢が分かれる。一ノ沢だ。踏み跡もそちらへ向かっている。沢の右側には三角形の山影が見える。先行するパーティの灯りがちらつく。緩傾斜の雪面を登って行く。しばらく登ると明るくなりヘッデンを消す。沢の左右の側壁にまばらに灌木が出てくるあたりから先は傾斜が少し増す感じなので、アイゼンを装着した。

途中二俣になっているが、左が本流。さらに進むとシンセンのコルが見えてくる。傾斜は増しているが、それほど急というほどではなく、30度くらいか。下の方は雪が安定していたが、シンセンのコルが近づくにつれ少しフワフワして若干崩れやすくなった。昨年秋にシンセン沢からシンセンのコルに上がってから見た一ノ沢は急峻に切れ落ちていたが、コル直下もそれほど急ではない雪面だった。コルに上がるとマチガ沢側から吹き上げる風が雪を巻き上げていた。7時にコルに到着。一ノ倉沢出合から2時間だった。
上がった所はコルのギャップの一段上で、雪が盛り上がった手前で先行パーティがロープ等の準備をしていた。休憩して待つことにする。そのパーティのリーダーの顔が見えた。知り合いのKさんだった。声をかけて挨拶をした。
先行パーティが動き出したので、我々も進んだ。コルの左側マチガ沢側の雪の踏み抜きに注意し、右へ一段上がる所を慎重に上がって、雪壁を少し左上して右へ曲がると第2岩峰(注1)のルンゼ手前のスノーリッジに出た。
 前のパーティがそのルンゼを越えるのをしばらく待つ。もうひとつ前のパーティはルンゼを登り切って頭にいるのが見えた。後で分かったが、そのパーティが東芝山岳会のYさんたちだった。

前のパーティではルンゼで苦労している人もいた。我々の後から来た2人組のパーティはアンザイレンしていて、この第2岩峰はリッジの手前でスタンディングアックスビレーで確保してスタカットで登るとのことだった。 我々もロープを出すか話になったが、ルンゼは4〜5m程度の高さで階段状に見え、その下も比較的安定した雪面の様だったので、ノーロープで行くことにした。実際に登ると一段上がる所は草付にピックがしっかり決まったが、その一段先は若干高めの段差でその先の雪面がやわらかくてピッケルが決まらず少しいやらしかった。細い灌木が出ていたのでそれを掴んでバランスを取って上がった。最後に登ったKNさんが少しいやそうだったので、少し上のしっかり締まった雪にピッケルを刺してアンカーとして長めのスリング3本を繋いで伸ばして、それを持ちながら上がってもらった。7時35分頃第2岩峰の頭に出た。
第2岩峰の頭の先は小さな雪の盛り上がりになっていたが、それを右から巻き下りて左側に出た。そこで、前のKさんパーティから先に行ってと言われ、順番を交替した。その先には露岩帯(注2)が現れ、もうひとつ前の先行パーティが露岩の左側の雪の斜面を登っていた。途中で追いつくと、Yさんたちだった。ずっと先頭でラッセルしてくれていたのだった。そのあと3パーティでラッセルを交替しながら登った。
露岩帯の上は観倉台まで続く雪壁だ。その雪壁の登攀中に3か所ほどシュルントがあった。登っていて気温が上がってきたのを感じた。観倉台に8時50分。観倉台からはオキノ耳までが見晴らせるはずだが、ガスでよく見えない。
観倉台から第1岩峰までは全体としてはほぼ高差のないルートだが、ポコポコといくつか小さなピークがあり多少アップダウンがある。そこはマチガ沢側に雪庇が張り出しているので一ノ倉沢側をトラバースする。ネットの記録等ではトラバースする雪の斜面は急で緊張するとの記載もあったが、それほどのことはなかった。第1岩峰手前に右側に盛り上がりがあって一ノ倉沢側を通れない箇所が10m弱あった。そこは幅30p〜40pくらいのナイフリッジの上を通った。
ガスが切れて第1岩峰からオキノ耳まで見晴らせた。2人パーティがオキノ耳下の雪壁を登っている。アプローチで追い抜かれた一ノ沢左稜パーティかもしれない。第1岩峰上部の雪にもトレースが見えた。
第1岩峰の手前で先行のYさんパーティが暑いので衣服を調整するから先に行ってということで、先頭を交替し、1番先に第1岩峰基部に着いた。9時5分着。 無積雪期にはその基部は傾斜があったが、今は平らな雪面だ。雪で底上げされて岩峰全体の高さも低く見える。 岩の部分の高さは3〜4mくらい。岩の上は幅1mくらいの左上する雪の斜面だ。無積雪期の同じ場所は土のテラスと段差になっていたのだった。 シンセンのコルからずっと安定したところがなかったので、少しゆっくり休んだ。2番目に着いたKさんパーティが準備ができて、先に登らせてとのことで先に行ってもらうが、登っている途中でアクシデントがあり仕切り直しとなったので、我々が先に登らせてもらうことにした。
第1岩峰の岩の部分の高さは3〜4m程度。岩はおおむね露出していて、所々雪が乗っているという感じだ。岩の下の方に着いた雪を払い落とすと、アンカーに使える残置ハーケンが2枚、プロテクションを取れる残置ハーケンが1枚出てきた。プロテクションは下の方なので落ちたらグランドフォール必至だが、下は平らな雪面、怖くはない。
KNさんに確保してもらってダブルロープで登り始める。少しかぶり気味の右上するクラック状をルートに取るが、直接上がろうとすると登りにくい。最初に左の小さなフットホールドに左足で上がってから少し右に移動すると上にガバに近いホールドを持てるので一段上がって右足を大股に開いて右の雪が乗った外傾した岩に置くとステミングの状態になって体がおおむね安定する。さらに左足を右足と同じ高さまで上げると完全に体が安定する。
ピッケルを背中から抜いてピックを草付に刺すとしっかり決まった。それで雪の斜面に上がる。同様にしてもう一歩上がって左上する。さらにもう一歩の所が、岩と軟らかい雪でピックが決まらないので、シャフトを刺して乗り込んだ。そうすると傾斜しているが安定した雪面となった。これで第1岩峰は抜けたことになる。昨秋来たときは、V級+くらいに感じたが、雪がついていてアイゼン・手袋だとW級くらいの感じだった。
抜けた先の雪質は締まっていない。これでは、セルフビレー用のスノーバーやスタンディングアックスビレーのピッケルも決まりにくそうだ。左の雪の中から直径4pほどの灌木が掘り出されていた。先行パーティがアンカーに使ったのかもしれない。スリングを掛けてテストしてみると、静荷重であれば十分耐えると思われたので、それをアンカーとすることにした。アンカーの状態をフォロワーの2人に伝え、1人ずつ登ってもらい、ロープがたるまないように注意して確保した。なお、昨年秋に登った時は、岩の部分を登り切った上の土のテラスの奥に直径10p弱くらいの灌木の枝が何本かあって、それをビレーアンカーとした。今回はそこは雪の下。ひょっとしたら掘り出せるかもしれない。
2人には、ビレーポイントまで上がった後、そのままロープを伸ばして数m先の安定したところまで上がってもらった。私もビレーを解いてそこまで上がる。時間は10時05分。
そこは小広く平らな雪面だった。ここでなら、雪を踏み固めてスタンディングアックスビレーができるかもしれないと思った。第1岩峰から少し距離があるのでその間の雪がブレーキの役割を多少は果たしてくれるかもしれないとも思った。確信は持てないが。
第1岩峰を過ぎると、国境稜線は目と鼻の先に見える。オキノ耳頂上直下の雪庇の切れ目に繋がる岩は、大部分雪の下に隠れている。そこからも行けそうだったが、トマノ耳には結構な人数が見える。オキノ耳にも人がいるとなると、覗きに来られて雪庇が崩落でもしたらと怖いので、先行パーティの踏み跡を追って雪庇下を左へトラバースして雪庇が稜線に吸収される所へ向かうことにした。なお、雪のない昨秋にはオキノ耳頂上部分の右側から上がったのだった。
雪壁を登り、雪庇下をトラバースして国境稜線に出た。トマノ耳との間のコルの少しオキノ耳寄りの斜面だった。全員が到着したのが10時40分頃だった。一ノ倉沢出合から5時間40分。深雪で時間がかかるかと思ったが、意外に早く抜けることができた。一緒になったパーティとの協働のおかげでもある。 稜線の登山道は登山者やボーダーでにぎわっていた。コルに下りて休憩しながら、西黒尾根から登ってきているはずのARさんたち西黒尾根隊がオキノ耳頂上の登山者の中にいないか目を凝らして捜す。結局見つからず、トマノ耳に向かう。
トマノ耳頂上に着くと、山口さんとARさんがいた。少し前に着いたという。会えた!同時に別ルートの仲間のことを想いあいながら登って合流できるのはいいもんだな、と思った。山岳会ならではの嬉しさ、楽しさを味わった。
トマノ耳頂上で写真を撮ったり、景色を楽しんで、みんなで天神尾根を下ってロープウエイで下山した。13時だった。
西黒尾根隊は、当初参加予定の町田さんが熱で不参加となり、2人なので、一緒に車で横浜へ帰った。下見山行の情報や経験が活かせた楽しい山行だった。

(注1)第2岩峰 (注2)露岩帯
昨秋に下見山行した時参考にした『新版日本の岩場《グレードとルート図集》』(RCCU著 山と渓谷社 1977年)では、シンセンのコルから最初に出合う岩場は「7mの垂壁(V級)」で、そこから稜線上を行ったり巻いたりして第2岩峰の頭に出るとなっていた。実際に下見でその地形が確認できた。なお、『日本の岩場[上]』(クライミングジャーナル編集部編 白山書房 1997年)では「7mの垂壁」は「途中の岩場(V)」となっていた。
しかし、積雪期のガイド本やネットの記録では、シンセンのコルからすぐに第2岩峰に出るように記述されている。その写真を無積雪期のときの写真と見比べてみると、「7mの垂壁」と一致する。今では、「7mの垂壁」を第2岩峰と呼んでいるのかもしれない。そして『新版日本の岩場《グレードとルート図集》』等に出てくる「第2岩峰の頭」の「第2岩峰」が、最近の積雪期のガイド本に出てくる「露岩帯」のようだ。
なお『日本の岩場[上]』の姉妹本である『改訂冬期クライミング』にある東尾根の記載では、そのあたりは判然としなかった。
本記録では、最近の記載にならい旧「7mの垂壁」を「第2岩峰」と記載し、旧「第2岩峰の頭」に至る岩場を「露岩帯」と記載した。昨秋の10月24日(夜)〜25日の東尾根山行記録では、『新版日本の岩場《グレードとルート図集》』等の呼称に従って記載したので、本記録の呼称とは異なっている。

(記録:N)


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